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クルーズ船で感染者ゼロ、「戦場の霧」と戦う自衛隊式4つのシンキングプロセス

文=高橋和弥(危機管理アナリスト)

2500年前から変わらぬ不朽のシンキングプロセス

 自衛隊では任務分析の次のプロセスとして、「情勢判断」を行う。情勢判断とは、作戦計画の作成に必要な活動地域と敵、味方の3つの要素について分析し、成り行きを判断することをいう。

 具体的には、

①作戦地域に関する地理的特性や気象海洋についての「地域見積」

②敵の状況や可能行動(意図と能力から敵が選択するであろう行動)についての「情報見積」

③味方の状況や可能行動についての「作戦見積」

を立てて、最終的には敵の可能行動は何か、それに対応する味方の作戦は何かを「結論」付ける。そして、それら見積りを基にして作戦計画を作成するのだ。

 上述のクルーズ船でのシミュレーションに当てはめれば、次の通りだ。

「地域見積」では、クルーズ船内は換気が悪いため空気感染のリスクが高く、船体は無線機や携帯電話の電波を通さないので部隊間の通信が困難など船内の特性が列挙される。「情報見積」では、生物兵器の知見を有する自衛隊中央病院や特殊武器防護隊の支援を受けて、ウイルスの感染経路や潜伏期間、致死率などのデータが示される。「作戦見積」では、防護衣など衛生資材の保有状況や対応可能な部隊の現況、過去の類似案件からの教訓などが考察される。

 そして、これら見積りを受けて、船内への電波中継器の設置、ウイルスから部隊を防護することができる衛生資材のリストアップ、仮に隊員が感染した場合の搬送・治療態勢、船内で活動する際の手順や対処要領についてのSOP(標準業務手順)などの作戦計画が策定されたのち、実際の支援活動が開始されるという流れだ。

 情勢判断における情報見積りと作戦見積りには、さまざまなマトリックスやフレームワークはもちろん、AI(人工知能)までも活用されているが、基本的な営みは「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」と記した『孫子』の時代から何も変わっていない。

“自衛隊式”の活用

 これまで、自衛隊は行動を開始するまでに、任務分析、情勢判断、結論、作戦計画の作成と4つのシンキングプロセスを踏むと紹介してきた。だが、この4つのプロセスは自衛隊の専売特許ではなく、実は民間企業や個人も無意識または意識的に手法を変えて行っている。

 しかし自衛隊との違いは、これらの思考過程をマニュアル化して、組織を構成する全員が相当期間をかけてマニュアル習熟のための教育や訓練を行い、実際の業務にあたってシンキングプロセスを行い、その結果を可視化して全員で共有しているか否かだろう。

 日本では、経営学の分野で軍事理論を応用した経営戦略論や組織論を学ぶことはできるが、上述の作戦計画のシンキングプロセスについては、防衛大学校や自衛隊内部の学校でしか学ぶことができない。戦前戦中の反動から軍事を語ること、学ぶことがタブー視され、現在においても一部の私立大学を除いては軍事や安全保障を学ぶ場さえない状況が続いている。

 上述シミュレートを私たちの状況に置き換えれば、政府の目的は、「新型コロナ感染症の拡大防止」である。そこから導出した国民一人一人の目標は何になるのか。ひとつ共通して言えることは、「不要不急の外出や人と接触を行わないことで、自身の感染と他者への感染を防止する」ことにある。外出自粛のストレスからか、SNS上ではそれぞれの“正義”に基づく他者への批判が増加している印象を受ける。行動するにしても、批判するにしても、「目的」と「目標」に照らし合わせれば、自ずと正解が見えてくるだろう。

 人の生き死にや国家の繁栄と滅亡に直接関わる軍事分野には、人類が多くの犠牲を払いならが得てきた知恵が蓄積されているといえる。自衛隊がクルーズ船で1人の感染者も出さずに任務を終えたことは、この知恵を活用したことの証左だといって差し支えないだろう。日本においても、時代とともに変遷する軍事の役割について冷静に考え、自衛隊や軍事を社会の“資源”としてどう活用していくかが問われる時代になったのではないだろうか。

最終更新:2020/04/28 12:12
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