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レコード会社は「360度契約」が仇に! 音楽、映画、アート……コロナで文化・エンタメ界が負った大きすぎるダメージ

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横浜アリーナでの無観客ライブを生配信したBAD HOP。

 世界各地で感染が拡大し続けている新型コロナウイルス(以下、コロナ)。日本でもその影響は多方面に及んでおり、2月25日に政府が文化イベントの自粛などを要請するコロナ対策の基本方針を発表して以降、文化やエンターテインメントの領域も大きなダメージを被っている。

 音楽業界の場合、大阪市内のライブハウスで発生した集団感染が2月末以降に大きく報じられたこともあり、コンサートやライブはいわゆる“濃厚接触”による感染リスクが高いとされ、EXILEやPerfumeをはじめ数多くの公演が自発的な中止・延期を余儀なくされている状況だ。政府発表の数日後には、椎名林檎率いるロック・バンドの東京事変が約5000人を収容する東京国際フォーラムでのライブを強行し、物議を醸したものの、その後の公演はやはり見送っている。また、人気の若手ラップ・グループ、BAD HOPは3月1日に約1万7000人収容の横浜アリーナで予定していたライブを無観客で実施し、その模様をYouTubeで生配信したが、自身ですべての活動を運営する彼らは1億円以上のライブ製作費を負債として抱えることになったと明かした。大手レコード会社社員のA氏は、こう語る。

「公演の中止は、アーティスト、所属事務所、興行主(プロモーター)などにとっては大問題です。中止を決断するタイミングにもよりますが、会場費はほぼ全額支払わざるを得ないでしょうし、当日使うはずだった機材やセットの料金、スタッフの人件費、グッズの制作費などに加え、すでに発売しているチケットの払い戻しやその手数料といった予定外の経費もかかる。当然、営業に支障をきたす会場のライブハウスやホールもあり、ぴあのようなチケット販売会社への打撃も大きく、ライブ制作会社(イベンター)も仕事を失っているので、業界全体の損失は甚大です。私自身も担当アーティストの公演が中止になったりしていますが、コンサートやライブに直接的にかかわる事業者よりはレコード会社へのダメージは比較的小さいほうでしょう」

 ただ、別のレコード会社社員B氏は次のように話す。

「音楽パッケージ市場が縮小し始めていた2000年代のある時期から、エイベックス をはじめいくつかの大手レコード会社は“360度契約”を推進してきました。要するに、レコード会社とアーティストが従来的な作品のリリースだけでなく、マネジメント、ライブ制作、ファンクラブ運営、グッズ販売、スポンサー契約などあらゆる活動について包括的な契約を結ぶケースが増えたのです。しかし、今回はそれが仇となり、公演中止・延期による直接的な被害を受けているレコード会社もあるようです」

 加えて、今回の公演中止・延期が「感染拡大のリスクを避けるため」という事由であることも関係者には悩みの種となっている。

「通常、興行主は“コンサート保険”と呼ばれるものに加入することが多く、天災や事故などで公演が中止・延期となった場合にはそれが適用され、補償を受けられます。しかし、今回のような感染症による中止は保険適用の対象外となり、何も補償されないケースもあると聞きます。そのため、興行主にとっては是が非でも開催したいというのが本音でしょうが、政府の自粛要請や世間の厳しい目も鑑みて、泣く泣くキャンセルしているのが実情です」(前出・A氏)

 こうした惨状は業界の内外で重く見られているようで、3月17日には「新型コロナウイルスからライブ・エンタテイメントを守る超党派議員の会」が開催された。党派を超えた国会議員のほか、ライブ・エンタメにかかわる業界20団体が参加し、この中で日本音楽制作者連盟の野村達矢理事長は、音楽コンサートのみならず舞台公演なども含んだ数字ではあるが、「2月26日から3月末に自主判断による中止・延期が1550公演あり、その損害額は推計450億円に及ぶ」と発表。さらに3月24日、ぴあの矢内廣社長は政府のヒアリングに出席し、スポーツの試合やコンサートなどこれまでに中止・延期となった興行は約8万1000件であり、すでに1750億円の経済損失が生じていると報告した。

 そして今後、コロナの感染拡大が収束しなければ、音楽業界はさらに悲惨な状況に陥る可能性もある。

「夏に向けてはフジロックフェスティバルなど複数の大型音楽フェスが予定されていますが、それらが中止に追い込まれた場合、この業界はどうなってしまうのか……」(同)。

映画の公開中止だけでなく延期も大問題

 そんな音楽業界と同様、映画業界も苦しい状況だ。先述した政府の発表を受けて、岩波ホールや早稲田松竹といった映画館が休館を決めたが、多くの映画館はしばらく営業を継続。ただ、やはり客足はおおむね鈍く、そこには「不要不急の外出は控えるべき」という政府の方針も影響しているのだろうが、映画業界関係者のC氏はこのように指摘する。

「19年に興行収入50億円を叩き出した『ドラえもん』の新作や、『プリキュア』など、例年であれば大きな観客動員数が見込める“春休みの子ども向け新作映画”の公開延期が早々に発表されました。こうしたことも、映画館の集客に影響を与えているように思います」

 さらに、海外での感染拡大を受けて『007』や『ワイルド・スピード』といった人気シリーズの新作、マーベル作品の『ブラック・ウィドウ』といった大作映画の公開延期が相次いで発表された。「配給会社や宣伝会社、映画館などは、その対応に追われる日々が続いている」(C氏)という。

「例えば配給会社にとっては、公開中止ではなく延期ならば問題ないと思われるかもしれませんが、映画館のスクリーン数は限られています。春公開の映画をゴールデンウィークや夏に延期するにしても、そこにはもともと公開予定の映画がある。つまり、その時期に公開される作品と延期になった春の作品でスクリーン数を分け合うことになりますから、いち作品あたりの公開館数は減ってしまうんです。映画の興行収入は公開館数と直接的に比例するので、結果的にすべての作品の興行収入は減少するでしょうね。昨年、日本の映画興行収入が歴代最高となる2611億円を記録したことが大きな話題となりましたが、今年の興行収入は昨年どころか例年に比べてかなり低い数字になることが業界内で早くも予想されています」(同)

 そして映画館については、単に先述した集客の問題にとどまらず、次のようなことも懸念される。

「そもそも映画館はテナント料や光熱費、スタッフの人件費といった運営コストが大きく、作品上映でだけで得られる利幅はかなり小さいんです。そのため、利益率の高いドリンクやポップコーンを販売したり、上映前にスクリーンでシネアドというCMを流したりしています。しかし客が減ればポップコーンの売り上げは下がるし、シネアドの広告効果も弱まりますから出稿料の見直しも想定される。その上、客がいくらまばらでも上映しなければならないため、人件費は削れない。運営コストばかりがかさみ、収支がマイナスになる可能性もあるでしょう」

 東京都の外出自粛要請を受けて、TOHOシネマズや松竹マルチプレックスシアターズなどが3月28・29日の週末、都内や神奈川県内における複数の劇場の営業を休止したが、こうした事情も背景にあるのだろうか。

美術館休館とアートフェア中止の影響

 最後に、アートの領域はどうかといえば、2月末の政府の自粛要請以降、多くの美術館が休館を継続している。同様に2月29日から臨時休館中である東京ステーションギャラリーの学芸員・成相肇氏は、こう漏らす。

「当館では2月8日から4月5日まで『奇跡の芸術都市バルセロナ』という企画展を開催するはずだったのですが、会期途中の2月28日で中止になりました。概算ですが、その日から会期終了までに見込めた入場者収入だけでも2000万円程度。当然、休館してからはミュージアムショップも営業していないので、美術館としてはなんの収入もない状況が続いています。こうした収入減に加えて、作品の輸送、それにかかる保険、展示と設営の費用のほとんどが無駄になりました。誰もいない完璧な環境の展示室で日々、作品の状態を点検しています。状態保持のための空調費も莫大です。また、当初の会期や入場者数を見込んだ宣伝も空振りになりましたし、関連イベントもすべて中止になりました」

 そして美術館が休館すれば、その労働環境も狂い始める。

「休館が決まってからは、企画展の協賛企業や作品をお借りしている関係者への連絡、イベント予約者や前売券購入者へのお詫びと払い戻し、再開館するためのガイドライン作成などに振り回されています。受付スタッフなどは休館中は休んでもらうほかなく、今のところ有給休暇のような形で給料が支払われていますが、美術館によっては無収入になるアルバイトスタッフも少なくないでしょう」(成相氏)

 さらに、成相氏のような学芸員にとっては、経済的ダメージとはまた異なる問題も生じている。

「学芸員というのは、ほかの展覧会の様子をリサーチしたり、各地の図書館で調べものをしたりする研究員でもあるのですが、今は美術館に併設されている美術の専門図書館も閉まっていることが多いので、調査があまり進まない状態です。美術館の外での講演会などのアウトリーチ活動も軒並みキャンセルとなり、非常に窮屈に感じています」(同)

 美術館側はこのようなダメージを受けているが、コロナが美術業界に与える影響はそれだけではない。例えば、3月下旬に開催を予定していた日本最大のアートの見本市「アートフェア東京2020」が中止となったほか、いくつかのアートフェアが中止・延期・縮小を決めた。

「アートフェアというのは基本的に作品を売買するためのイベントなので、それがなくなれば、アーティストやギャラリーにとっては単純に作品の販売機会を失うことになります。アートフェアの中止は、このように作品の売り手はもちろんのこと、アート・ディーラーやコレクターといった買い手の側にも非常に大きな影響を与えるのではないでしょうか」(同)

具体的な支援・補償に触れない文化庁長官

 ここまで音楽業界、映画業界、美術業界の様子を見てきたが、無論、ほかの文化・エンタメの領域も大きな打撃を受けている。そして、現段階でコロナの収束時期はまだまだ見えず、各業界が負った傷はさらに深くなっていくことが予想される。

 こうした事態は他国でも見られるものの、例えばドイツ連邦政府は、文化・芸術・メディアなどに携わる中小企業や個人に計600億ユーロ(約7兆円)超規模の支援を発表。また、イギリスでも文化・芸術団体の運営などを行う政府外公共機関、アーツ・カウンシル・イングランド(ACE)が1億6000ポンド(約215億円)の緊急措置資金を提供すると表明した。

 翻って日本では3月27日、文化庁の宮田亮平長官が「文化芸術に関わる全ての皆様へ」と題したメッセージを公表。しかしながら、具体的な支援・補償についての内容はなく、「日本の文化芸術の灯を消してはなりません」「明けない夜はありません!」といった“ポエム”のような文言ばかりが綴られ、失笑を買った。これを目にした文化・エンタメにかかわる当事者たちは、ますます暗澹たる気持ちになったのではないか。

(取材・文/編集部)

サイゾーpremiumより

最終更新:2020/05/06 18:20
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