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政治学者・中島岳志が分析する2020都知事選【前編】

小池百合子はテレビ討論から逃亡で戦わずして勝利、左翼共闘失敗よりも不気味な桜井誠の17万票

自民が安心できるくらい弱い野党

ーーでは一方、小池氏に対抗する宇都宮健児氏や山本太郎氏の結果についてはいかがでしょうか?

中島 彼らの得票率を合わせると、およそ25%ほどになります。今回の投票率が55%だったので、都民全体で見れば彼らに投票した人は1割強といったところ。この結果から、野党に対する魅力が全体として低下していることを率直に見なければならないでしょう。

 実は、この結果を受けて満足しているのは安倍内閣ではないかと思います。都知事選によって、野党の求心力が低下していることがはっきりした。きっと彼らは、安倍4選で解散総選挙をすることができると思ったのではないでしょうか。

 新しい政治を生んでいくためには、野党が強くなければなりません。政権交代は難しいとしても「安倍のままでは選挙に勝てない」と自民党の側に思わせなければ現状は全く変わりません。コロナ禍で安倍内閣に対する支持率は落ち、浮上するきっかけもつかめないにもかかわらず、自民党側が「トップを替えなくても大丈夫」と安心できるくらい野党が弱いことがはっきりした。それが、都知事選の一番の問題だったのではないかと思います。

ーーしかし、宇都宮氏と山本氏では経済政策のほかに大きな違いはなく、リベラルな有権者の票を割り合ったのではないかと言われています。

中島 いえ、山本氏が出なかったほうがひどい結果になっていたかもしれないと思います。おそらく、宇都宮氏だけでは1/4を取ることはできなかった。というのも、選挙結果を見ると、山本氏は30~40代の支持を集めています。彼に拮抗しているのが維新推薦の小野泰輔氏。維新とれいわでは投票する年齢層は意外と重複しているんです。その一方、宇都宮氏を支持しているのは、圧倒的に高年齢層のリベラルです。宇都宮氏と山本氏ではそもそも層がずれています。むしろ、山本氏が出ていなかったら、多くの人が維新に流れた可能性もあります。小野氏が勢力を伸ばして、宇都宮氏の上に来る可能性すらあったかもしれません。

 また、山本氏が出馬したことによって、リベラル側が活性化した側面もありました。宇都宮氏だけの出馬であれば、全く盛り上がることもなく投票率も下がっていたはず。事前調査ではそれぞれ6~7%だった支持率が、結果的に宇都宮氏が13%、山本氏が10%の得票率と底上げされていた。相乗効果があったと見るほうが適切でしょう。

ーーただ、山本氏が出馬したことによって、「共闘できないリベラル」という印象がついてしまった側面もあるのではないでしょうか?

中島 そもそもれいわと立憲では、狙う有権者の層が異なります。通常の選挙結果では、2:5:3の法則といって、野党が2割、無党派が5割、与党が3割の配分となる。立憲側が野党支持の2を固めることを狙う一方で、山本氏は2を固めるのではなく、無党派層の5を掘り起こすことを狙っている。

 これと同様の戦い方をしたのが小泉純一郎でした。彼は、自民党支持者である3を固めず、むしろ「既得権益」として名指しすることによって5の無党派層を取りに行った。

 山本氏は、パソナの竹中平蔵をはじめ、与党の既得権益を攻撃しますが、同時に野党側にも注文をつけます。彼の目からは、旧民主党の政治や労働組合などは、時に硬直化した既得権益層に見えるのでしょう。彼は明らかに無党派層を取り、自民党政治による地方の窮状などを論点とすることによって与党側を崩そうとしている。しかし、野党側の支持者を奪うことにはあまり関心がないんです。

ーー野党支持者の票は、山本氏の眼中にない、と。

中島 参院選後に彼にインタビューをしたのですが、その時の答えがとても印象的でした。「左派ポピュリストと言われることをどう思うか?」と質問したところ、「ポピュリストが多くの人の意見を聞き、反映させるという意味なら、ポピュリストと言われることに関してはその通りだ」と答えていました。しかし、その一方で「左派」ではないと否定しています。自らを左派と位置づけると、無党派層や与党支持者に逃げられてしまうことをよく認識しているのです。

 山本氏には、リベラル野党支持者の票を宇都宮氏から奪おうという狙いはありません。だか今回の選挙戦でも宇都宮陣営に対してほとんど言及していない。「宇都宮氏と票を割り合っているのではないか」という批判は、彼にとってはあまり関心がなかったのではないでしょうか。それよりも野党が勝つためには、これまで与党に投票していた人を反転させなければならない。その方法を第一に考えているのだと思います。

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