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官僚たちが天下っていった「合法ブローカー」の利権…スペシャリストが暴く“移民”問題のウソとホント

文=飯田一史(いいだ・いちし)

写真/Getty Images

 2013年にアメリカ国務省から「人身売買と戦うヒーロー」として表彰された、外国人労働者問題のスペシャリスト・鳥井一平氏。国際常識からかけ離れた政策や待遇がまかり通るこの領域にはびこるウソ、間違い、俗論を正し、共に日本社会に生きる隣人としての外国人労働者がまっとうに生きられる明日を作るべく活動してきたが、外国人労働者保護に動いたところ、逆上した雇用主によってガソリンをかけられた上に火を放たれ、全身に大やけどを負ったこともある。この6月、『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』(集英社新書)を出版し、同書の中で「もう移民社会は始まっている。いないことになっている『外国人労働者』が日本経済を支えてきた」と語る鳥井氏に、話を訊いた。

鳥井一平著『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』(集英社新書)

外国人を時給300円で働かせていた企業

――『国家と移民』では、日本にいる外国人労働者についての典型的なウソ、間違いが次々に正されていきます。例えば、その1「外国人労働者、不当滞在者は犯罪の温床」というウソ。刑事事件の検挙人数は2018年で年間約5000人、約1万件。日本の在留外国人数は250万人以上いるので、全体からすれば0.2%以下です。1000人に2人しかいません。にもかかわらず入管職員や警察は、みんなが潜在的な犯罪者であるかのように接してくる、と。

鳥井 出稼ぎに来ているオーバーステイの人たち(ビザの切れた超過滞在者)に限っていえば、刑事犯罪発生率は特に低いんです。働き続けるためには目立ちたくない。犯罪集団とはできるだけ関わらないようにしています。ところが、マスメディアでは逮捕者に対して国籍を出して報道するので、例外が特別目立つんですね。最近では、「マネーロンダリングなどに銀行通帳が不正使用されている。外国人は口座を解約してから帰れ」というキャンペーンも打たれています。実際、銀行に聞いてみると、「振り込み詐欺で使われているのは、ほとんど日本人の口座ですよ」と。移民、外国人に関してはイメージ操作がヒドいんです。

――ウソ・間違いその2は「移民を受け入れると国内の雇用が奪われる」(雇用競合論)というものです。そもそも、その国の人間が就きたがらない低賃金重労働を外国人労働者が担っているから競合しようがない、と。

鳥井 これに対する反論として、「今は技能実習制度を使ってコントロールしているから、雇用が奪われていないんだ」と言う人がいるのですが、技能実習制度ができる以前の80~90年代初頭のバブル期にもオーバーステイはどんどん来ていました。でも、雇用の奪い合いはなかった。日本人労働者にいい仕事がないとしたら、それは産業政策がうまくいっていないからであって、政府がその言い訳を「移民のせいだ」と転嫁しているだけです。

――ただ、日本人が就きたがらないような労働現場だから、さまざまな問題が集約されやすいわけですよね。高い賃金を払える職場なら経営者も仕事内容もまともな確率が高く、相対的に労働問題は起きにくい。

鳥井 私はもともと中小零細企業をフィールドに活動していたんです。零細企業では昔から労働災害が多発していました。賃金は安く、労働時間は長い。そこに外国人労働者が入ってきたことで、その問題がより顕在化したわけです。彼ら彼女らが日本社会にはこんなヒドいところがあると“気づかせてくれた”という面もあります。

――鳥井さんの本には、外国人労働者を残業代時給300円で働かせ、逃げられないようにしていた企業の事例が書かれていますが、そこまでして続けないといけない事業なのか、という気持ちがわいてきます。介護や建設などで、どうしても働く人が必要なのはわかるのですが……。

鳥井 時給300円でも、うまくいけば300万くらいの貯金をして帰っていきます。「だからいいじゃないか」と言う人もいます。でも、本当にそれでいいのか? と。本来は、最低賃金でも払われていたら600万くらい余計に持って帰れたわけです。じゃあ、その差額は誰が持っていっているのか? そもそも低賃金労働を強いる構造に目を向けないといけない。

 例えば、縫製業。かつては日本人の安い労働力を使っていたけれども、それが難しくなってきた。けれども、政府は「日本の縫製業はどうあるべきか」という産業政策をろくに立てないで、「民間で勝手に考えなさい」と委ねた。すると、大手は人件費の安い海外に出て行ってしまい、下請け、孫請けをしている「あんたのところで引き受けなければ、海外に持って行く」と値踏みされて中小零細は困ってしまった。

 そこでようやく、政府は技能実習制度を用意したわけです。アジアに工場を作るのと同じように、国内でも安く外国人を雇えますよ、と。中小零細からすると、そもそもの受注金額自体が安すぎるから、ヒドい待遇で外国人を働かせるしかないわけです。どんな理由があってもパワハラ、セクハラ、法定賃金以下の労働などは許されませんが、しかし、零細企業の社長もある面では被害者です。大企業は自分のところの従業員は守っているかもしれない。ところが、外注先に対する態度はどうだ? という話ですから。

 縫製や製造業では、「メイド・イン・ジャパン」だけれども「メイド・バイ・チャイナ」「メイド・バイ・ベトナム」のものが山ほどあります。「地産地消」とさかんに言われている農業もそうです。いろんな国の技能実習生たちが一緒になって野菜を作っている。そうやって日本を支えてくれている人たちに対して時給300円で本当にいいんですか? と言いたい。

 

「技能実習」は誕生から偽装されていた

――今や外国人労働者の中心といえる技能実習制度は1993年にできていますが、「発展途上国を支援(技術移転)するために、技能を実習生に教える」という建て前と「労働力が欲しい」という現場の本音が、最初から今までずっと乖離したまま続いているのが本当に不思議なのですが、なぜそうなったのでしょうか?

鳥井 もともと、本音と建て前を乖離させるために作った制度なんです。この制度を作った官僚が書いた本をひも解くと、そもそも「技能実習制度」を作るために90年に外国人在留資格(ビザ)「研修」を独立・新設した、と書いてあります。つまり、「外国人労働者を受け入れる」とストレートに言うと反発が大きいだろうとの推測のもと、「学ぶ」活動としてのビザを作って、それで入れてしまえ、と。1年間の「研修」が終わったら、「研修を拡充する」「技能実習」という名目でもう1年働ける。そしてその後、さらにもう1年働けるようにした。このように、誕生からして偽装だったんですね。

――外国人労働者問題のウソ・間違いその3は、「日本企業は使い捨てできる期間労働者だけを求めている」というものです。2015年に外国人建設就労者受入事業を国土交通省が始めた背景には、建設業を営む会社の社長としては本当は長期雇用したいのに、技能実習制度では2~3年で帰ってしまうので困っているからだと。

鳥井 実はこの「就労者」という名前は、外国人受け入れに消極的な安倍政権に対する国交省なりの知恵です。これから新たに受け入れますよ、しかしあえて「労働者」とは呼ばない――そういうイメージ、ニュアンスを狙っている。

 ところが、実際には多くの建設現場で、すでに熟練労働者は今や外国人なんです。日本人の新顔を外国人労働者がずらりといる現場に連れて行って、「この人たちはプロだから、教えてもらって」と言っている光景があるわけです。

 ある外食大手の会長が「現場では技能実習生に対して技能を教えられる者がいない」と言っていましたけど、本当にそうなっている。もうイチから育てていくしかなく、そこに来てくれるのは外国人しかいない、という現場がたくさんあります。

 そして問題なのは、技能実習制度ではせっかく育ってくれた人も最長3年で帰さなければならないということです。私が現場の社長と話すと、「外国から来て3年も働いた人たちは我が社の精鋭ですよ。この人たちを長く受け入れる制度はないんですか?」と訊いてくるわけです。建設、農業、縫製、外食……現場は人手不足でのっぴきならない状況です。

 「海外から高度人材をどう受け入れるか」という議論がありますけれども、高度人材はキャリアを求めるから、会社も滞在国もどんどん変えていくわけです。そうではなくて、私たちの社会は――この言葉は好きではないんだけれども――「単純労働者」を求めている。ただし、使い捨てではない、育てていける人。長く働いて、地域にも馴染んで担い手になってくれる人たちです。

 「不法滞在者8万人をなんとかしないといけない。無理やり帰国させろ」と政府は閣議決定して入管法を改正しようとしているんだけれども、彼らがどういう人なのかがまったくわかっていない。『不法就労者』はどんな仕事をしてきたのか。例えば、解体・産廃業です。彼らをみんな帰したら、産業として成り立たず、解体・産廃業がみんな潰れてしまう。そうなった場合、この社会は成り立ちません。

 それから「不法滞在」というけれども、その中には日本にやってきて10~20年暮らしているオーバーステイの人たちの子ども、日本で生まれ育ってもう中学生・高校生になっている子たちもたくさんいる。その子たちに一体どこに帰れというのか。国籍のある国に行ったとしても、生活の基盤も仕事の基盤もない。

 こういう人たちを収容したり送還したりするよりも、実態に即して合法化すればいいじゃないですか。

日本語学校と企業と大学がグルになって留学生を集める

――外国人労働者問題のウソ・間違いその4は、「留学生がアルバイトに勤しむのは当たり前」という日本人の認識です。技能実習生と留学生で外国人労働者の4割以上を占めており、それを厚労省が「労働者」の分布として公開しています。ところが、日本にいる留学生は88%が働いている一方、韓国はわずか2.2%。留学生を労働力として期待していること自体が国際的に見ればおかしい、と。

鳥井 それがブローカーの暗躍につながっています。つまり、日本に働きに来るためには、「留学」という外形をまとわないといけないから、「留学」と偽装している。というのも、技能実習生はどの産業でも受け入れられるわけではなくて、分野が決まっているんですね。留学生の働き先を見れば、一目瞭然。技能実習で認められていないスキマに入ってきています。

 日本の場合は、現地の日本語学校と、受け入れ企業と、経営の苦しい一部大学がグルになっています。例えば、モンゴルの留学ブローカーは「いい仕事があります」と現地でテレビCMを打っています。新聞社から支援を受けて新聞配達をしながら学校に通う「新聞奨学生」をもじったような「新聞留学生」と銘打ち、「日本で働きませんか」と言って“留学生”を集めている。それで興味を持った人を日本語学校に送り込んでお金を取り、借金を背負わせ、大学に入れて働かせる。つまり、日本に来た時点で逃げられないような状態になっているわけですから、受け入れ企業からすると助かるわけです。

――外国人労働者問題のウソ・間違いその5は、「不法入国・滞在者は犯罪者なのだから、強制的に帰還させるのが当たり前」というものです。難民条約では強制送還は禁止、不法入国・滞在を理由に罰してもいけないと規定されているにもかかわらず、日本はまったく守っていません。

鳥井 難民審査は専門家がやる。審査で通らなかったとしても、送還はしない。それが国際的なルールです。

 ところが、日本では難民申請者に対して「自分が難民であると証明しろ。できなければ帰れ」と言うんですね。証明できるような状態じゃないから逃げ延びてきているのに。しかも、難民認定をする審査官は入管の中にいる。つまり、国際的な問題に関して見識があるわけでもない、出入国を管理している人が判断してしまう。本来は入管とは別の機関を作って難民かどうかを認定すべきですよ。

 「難民を偽装して入ってくるやつがいるから仕方ない」と言う人がいるけれども、難民ブローカーの問題も留学生ブローカーと同じで、日本で働くための入口が限られていたからです。難民、留学生、技能実習という形で働きに来てもらうという欺瞞をやめて、外国人労働者を素直に受け入れる制度にすれば解決する問題は多いわけです。

 自民党の支持母体は全国の経済の担い手です。そういう人たちは地方経済、地域で外国人労働者が必要とされていることをわかっている。育てていけて、根づいてくれる人が欲しいと。ところが、こと安倍政権に関しては排外主義者が中核的な支持者だから、外国人受け入れがイヤだった。それで折衷的に「特定技能」を新しく作ったけれども、中途半端なものだったから、フタを開けたら全然集まっていない。

官僚たちが天下っていった「合法ブローカー」の利権

――外国人労働者問題のウソ・間違いその6は、「外国人労働力の受け入れにはブローカーの暗躍が付きもの」。ブローカー暗躍の余地を作っているのは日本側の制度の問題であって、介在の余地のない制度設計をしている国も多い、と。

鳥井 これがさらに厄介なのは「合法ブローカー」だということです。暴力団の類いはごくわずか。どういうことか。経緯を説明しますが、90年代には技能実習生は圧倒的に中国人実習生が多く、もともとは中国支援、日中友好を目的に本当にまじめにやっていたんです。ところが、利権を狙った人たちに乗っ取られて、大規模受け入れが始まる。そして、「受け入れ団体は儲かる」という認識が広まって、「一次受入機関」といわれる今の監理団体が雨後の筍のようにボコボコとでき、。

 実習生ひとりにつき監理の費用として1万円を取るとして、100人いたら月の売り上げは100万円です。実際にはいろんな名目を付けて3~4万円取っていく。それを3~4人で運営する監理団体でどんどん回していくわけです。

 そんなものは全部やめて、企業は外国人に対しても公共職業安定所(ハローワーク)を通じて求人を出し、働きたい人もハローワークを通じて応募する。それだけでブローカーは排除できます。技能実習制度をやめて、外国人労働者を実態に即して受け入れる制度に変更し、ハローワークを多言語対応化すれば、解決するんです。

 目指すべきは、「労使対等原則が担保された多民族・多文化共生社会」です。それさえ担保されれば、外国人労働者問題は健全化していきます。彼ら彼女らはただの保護・救済されるだけの対象ではありません。力を持っています。ですから、その実態に見合った、対等にものを言い合える制度を作らないといけない。

――あとがきによると、「この本に書けなかったこともたくさんある」とのことでしたが、例えばどんなことですか?

鳥井 『国家と移民』というのは、新書にしては大きなタイトルじゃないですか。アマゾンのレビューなどを見ても「大げさだ」とか書いている人がいましたが、私は「移民という存在は、国家とは何かを考えるきっかけになる」と言いたかった。移民は外国から来るだけではなくて、日本人だって海外在留邦人は長期滞在と永住だけで140万人。3カ月程度の短期留学やビジネスも入れれば、大きな数字になると思います。そのとき、国家はどんな役割を果たすのか。日本人はほかの国でどのように統合されているのか。その国や地域で心地よく生活し、働くために、それぞれの国は何をしているのか。そのあたりのことは新書では書き切れませんでしたから、今後取り組んでいきたいと思っています。

 それから、『国家と移民』には悲惨なエピソードばかり取り上げていますが、本当は「移民社会っていいな」と思わせてくれる、いい話もいっぱいあるんですよ。学生や地域の人との触れ合いとか、医療従事者の素晴らしさとか、そういうこともこれから伝えていきたいですね。

鳥井一平(とりい・いっぺい)

1953年、大阪府生まれ。特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」代表理事。全統一労働組合外国人労働者分会の結成を経て、93年の外国人春闘を組織化。以降、一連の長きにわたる外国人労働者サポート活動が評価され、2013年にアメリカ国務省より「人身売買と闘うヒーロー」として日本人で初めて選出、表彰された。 著書に『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』(集英社新書)。

 

飯田一史(いいだ・いちし)

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

最終更新:2020/07/25 15:00

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