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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.604

日本のいたずらテレビに出演するはずが殺人犯に!! 実話ミステリー『わたしは金正男を殺してない』

東京ディズニーランド好きだった金正男

空港で助けを求める金正男。フランスで入院中の叔母を見舞うため、クアラルンプール空港をよく利用した。

 ドアンとシティが再会したのは、マレーシアの法廷だった。2人は殺人罪で起訴されていた。マレーシアで殺人罪が確定すれば、絞首刑が宣告される。マレーシア警察が空港の防犯カメラに映っていたドアンとシティを逮捕するまでの間に、2人を暗殺の実行犯に仕立てた工作員たちは北朝鮮へ帰国、もしくは北朝鮮大使館へと逃げ込むなどして捜査から逃れた。裁判では、ドアンとシティに殺人の意図があったのかどうかが焦点となった。外国語で進む裁判は、2人にとってどれだけ恐ろしいものだっただろうか。それまで面識がなかったドアンとシティは、拘置所でお互いに慰め、励まし合うことで友情を深めたという。

 金正男暗殺事件の実行犯となったドアンとシティをめぐる裁判の行方は、マレーシアと北朝鮮との外交問題、そしてインドネシア政府、ベトナム政府の思惑が絡んで二転三転することになる。世界中が2人に注目した。いたずら動画をきっかけに人気者になりたいー。彼女たちの抱いた夢は、あまりにも皮肉な形で実現することになった。

 それにしても自分たちの手を汚すことなく、暗殺を成功させた工作員たちの考えたシナリオがあまりにも巧妙すぎる。権力闘争には興味を持たず、中国のマカオでこっそりと暮らしていた金正男だったが、北朝鮮の現在の最高指導者である異母弟・金正恩の立場をいつ揺るがすことになるか分からないと判断されたのだろう。ディズニーランド好きで知られた金正男は、まるでハリウッド映画のような殺人シナリオによって45歳の生涯を終えている。

 アイドルになりたい、より豊かな生活を手に入れたい。若い女性たちの持つ欲望を巧みに利用した事件の首謀者は、作戦がシナリオどおりに成功したことにほくそ笑んでいるのだろうか。それとも、自分もいつ誰に粛清されるか分からない恐怖を感じているのだろうか。

 

『わたしは金正男[キム・ジョンナム]を殺してない』
監督/ライアン・ホワイト
配給/ツイン 10月10日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
(c)2020 Backstory,LLC.All Rights Reserved.
https://koroshitenai.com

最終更新:2020/10/10 11:00
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