日刊サイゾー トップ  > 木下恵介『二十四の瞳』で学ぶ、困難を生き抜く術
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第3話

木下恵介の名作『二十四の瞳』で困難を生き抜く術を学ぶ…新型コロナという社会変化をどう乗り換えるか?

高峰秀子の著書からしつ撮影裏話も必読!

 戸惑うばかり大人たちですが、そんな大石先生の勢いに引けを取らないのが、12人の子供たちです。演じる子役たちは、公募によって選ばれた子供たちだそうで、まっすぐな瞳ととても自然な素のお芝居が本当に魅力的でした。高峰さんの著書『わたしの渡世日記〈下〉』(新潮文庫ほか)に当時を振り返った文章が綴られているのでご紹介します。

「出演するのはいささか気が重かった。というのは、私自身がイヤイヤ子役をしていた経験があるせいか、子役という人物がキライである。というよりも、子役を相手に芝居をすることが苦手、と言ったほうが当たっていたかもしれない。」

「みんな良い子で、私が昔子役をしていたときのように狸寝入りなどする不届き者はいないが、木下監督が声を嗄らして説明しようと叫ぼうと、一人があっちを見れば一人がこっちを向き、一人がセリフを言えば一人はアクビをしている。ある長いカットでは、本番四十九回目にやっとOKが出て、子供たちもさすがにゲンナリした顔をしていたが、先生役の私のほうがへたばって、道ばたに座りこんでしまったくらいだった。」

 撮影ものすごく大変だったんだろうなぁ~と思ってしまう、子供たちの様子がうかがえますよね。木下監督も「あんた達、こっち向きなさい!見苦しいです!」と子供たち相手にヒステリーを起こしていたと、助監督を務めていた松山善三さん(後の高峰秀子さんの旦那さん)が言っていたみたいです。子役の子たちって、本当に優秀で礼儀正しくて素晴らしいと思うのですが、当時はきっとそうじゃなかったからこそ撮れた子供たちの素の姿や、それを受けた大石先生の表情が、この作品にはたくさんあるんじゃないかなぁと思います。

 12人の児童たちの瞳は本当に純粋に輝いていて、それを見つめる大石先生の眼差しは、愛情が溢れ、とても温もりがあるんです。

「あの二十四の瞳を汚しちゃいけないと思ったの」と大石先生は口にするのですが、大石先生自身も、純粋で真っすぐな、子供たちと同じ瞳をしていて、とても印象的なんです。

しかし映画が進むにつれ、戦争で不況が激しくなっていきます。軍人に憧れる男の子、次々に戦争に駆り出されていく男の子、家の手助けをせねばならないという当時の考えで、本当になりたい夢を目指すことすらできない女の子、病死する子……。大石先生はそんな子供たちをどうすることもできず、しかし励ましの希望の言葉をかけ続けるのです。この大石先生と子供達のやりとりに、何度涙したか。出会った初めの頃に撮影した集合写真がたびたび出てくるのですが、現状との差があまりにもあり過ぎていて、写真だけが眩しく見えて、観ているこちらも苦しくてたまらなくなるのです。

 やりきれない出来事が続き、大石先生の真っすぐな瞳はだんだんと変化していきます。希望がなく輝きを失った瞳で、ただ今を生きるために精一杯なのです。別人のような大石先生の姿に本当に驚かされました!一気に老け込んで、声も少ししゃがれていてハリがないし、歩き方や口調も変化していて……。

 今作高峰さんは、20代から40代までを演じていているのですが、同じ教壇に立っている姿でも、希望に満ちた20代の頃と、その激動の時代を経た50代の姿は全く異なっていて、DVDを何度も巻き返して観直してしまいました! 女優・高峰秀子の凄みを魅せられました。

 子供たちの中でも私が特に印象的だったのは、母親が亡くなり、学校を辞め奉公に出される松江という女の子。突然の別れとなった大石先生と松江ですが、大石先生が修学旅行で訪れた金比羅通りの食堂で、偶然の再会を果たします。その松江の働く食堂のおかみさん役に、浪花千栄子さん!!! NHK連続テレビ小説『おちょやん』ヒロインのモデルとなっている女優さんです。脇役陣をしっかり固めている今作品!浪花さんも、改めて本当に素晴らしいんですよね。剥き出しに嫌味な感じではない、絶妙なさじ加減の意地悪さ。当時の、奉公先での厳しさが背景に感じられるお芝居に、感服しました。

 仕事中のためあまり話ができず、その後、店を出た大石先生を松江は追いかけるのですが、再び話すことは出来ません。みんなが帰る船を1人見つめながら、涙を拭うのです。やり場のない、ただ泣くことしかできない松江。港で、松江が涙を流しながら歩くシーン、本当に胸が痛いのですが、そんな松江を、すれ違う大人たちが気にかけている姿がさりげなく映されているんですよ……! 現状を変えることはできない厳しい時代の中にも、人を想う温かさを感じられる木下監督の演出、本当に素敵です。

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