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産業医と映画Pの配信作品批評「ネフリんはほりん」#4(前編)

世界で大ブーム『クイーンズ・ギャンビット』カメラワーク、衣装、監督…すべてが一級品のやばすぎる本気度

ラストシーンから逆算されたカメラワーク構成

伊丹 それはカメラワークが、非常に綿密に計算されていることにも現れている。実は1話から全編通して手持ちカメラが使われてないんだよ。人為的ではない機械的なカメラワークなのは、彼女の孤独さ、無機質さに寄り添うため。唯一例外なのが最終話のラストシーン。最後の対局が終わった移動中、急に車から降りて市井でチェスを楽しんでる人たちのところに歩いて向かう場面があったと思うけど、あそこで初めて手持ちカメラが使われてる。

大室 ああ、そういえば……! 画面がすごく揺れてたね。

伊丹 あれはシンプルに言うと、生きるための手段だったチェスから解放されて、初めて心からチェスを楽しめるようになった(=自由になれた)ことを表現している。このシーンから逆算して全7話のカメラワークを構成しているぐらい作劇的にも緻密に構築されている作品だから、それを踏まえてもう一度見てほしいくらい。

――ラストシーンはハーモンを中心にすごく晴れやかなシーンでした。

伊丹 本作の監督と脚本を担当したスコット・フランクは間違いなくこれを意図して撮ってる。物語の冒頭もそう。バスタブから起きて、遅刻に慌てながら男たちが集まるチェスの対局の会場に向かう、というシークエンス自体が作品テーマのダイジェストになってる。どん底の水に浸かっているところから髪をかき乱してボロボロになりながらも新しい世界の扉が開けて戦っていくことの暗示なの。

大室 序盤は孤児院の話がメインで、絵的に暗すぎるからパリの華やかな雰囲気を見せて、「彼女はこれからこういう道を歩むんだよ。この人の人生、興味あるでしょ?」と提示しているようにも感じたな。そうすれば視聴者も離れない。

伊丹 それもあると思う。いかんせん1話1話にカタルシスがあるストーリーじゃないからね。ただし、今挙げたように隠されたメタファーもいっぱいある。だから何回も見て、それを見つける楽しみ方もできると。

大室 チェス盤のようなチェック柄がハーモンの着る服や背景美術に多用されていたりね。徹頭徹尾、チェスみたいに裏で計算され尽くされていて、いつのまにか見る人の心にチェックメイトしている……。まさにチェスのような作品だね。

伊丹 うまい!

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1978年生まれ。現在、産業医として日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社を担当。

Twitter:@masashiomuro

おおむろまさし

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1979年生まれ。インディペンデント映画の制作に携わり、現在はフリーランスでテレビドラマ、映画、舞台などのプロデュースをしている。

いたみたん

最終更新:2023/02/08 20:04
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