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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.624

ありのままの姿でいられる“居場所”づくりの物語 肝っ玉かあさんが奮闘する『ステージ・マザー』

危機的な状況を変えるのはマイノリティー

ありのままの姿でいられる居場所づくりの物語 肝っ玉かあさんが奮闘する『ステージ・マザー』の画像2
ミュージカル形式で開かれるリッキーの陽気な葬式。田舎暮らしの母親はびっくり。

 サンフランシスコでは同性婚が認めているが、ネイサンとリッキーは正式には籍を入れていなかった。そのため、リッキーのお店の所有権は、メイベリンにあることが分かる。まったく門外漢な夜の世界だったが、メイベリンはゲイバーの経営に取り組むことに。ショーの中心メンバーだったリッキーを失ったことで、お店は風前の灯状態だった。お客を呼べる人気者や演出家は次々と去っていく。残ったのは、他には行き場のない冴えないドラァグクイーンたち。ゲイバーでのショーは口パクがお約束だが、葬式で披露したような生歌にしてはどうかとメイベリンは提案する。田舎の教会の聖歌隊を指揮している彼女の出番だった。

 ドラァグクイーンたちの中に、平凡な主婦という異分子が入りこみ、活力を与える。怖いもの知らずの田舎のおばちゃんが、意識改革をもたらす。閉鎖寸前の古い靴工場を、ひとりのドラァグクイーンが立て直していく『キンキーブーツ』(05)の逆パターン的展開で、物語は進んでいく。危機的状況を変えていくのは、いつだってマイノリティー側の人間だ。

 舞台となるのは、ゲイコミュニティーとして有名なサンフランシスコのカストロ通り。ゲイであることをカミングアウトした公職者ハーヴェイ・ミルクも、カストロ通りでカメラ店を開いていた。観光スポットでもあるこの通りで、ドラァグクイーンたちの賑々しいショーが夜ごと繰り広げられる。

 ドラァグクイーンたちとの交流を重ね、次第にメイベリンは素顔の彼らが息子と同じように悩みを抱えていることを理解する。セルフプロデュース能力には優れているドラァグクイーンたちだが、家族との間に軋轢が生じている者も少なくない。孤独さから、つい薬物に手を出してしまう。メイベリンはおばさん感丸出しで、お節介を焼く。「ドラッグはやめなさい」と説教を垂れるだけでなく、ひとりぼっちの寂しい夜を避けさせるために朝まで一緒に過ごす。

 血が繋がった家族でなくてもいい、自分のことを本気で心配してくれる人がいるという事実が、孤独な人間の心の支えになる。長い人生を生きてきたおばちゃん・メイベリンは、そんな支え役にぴったりだった。息子を失ったメイベリンも、ゲイバーに自分の居場所を見出す。

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