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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.624

ありのままの姿でいられる“居場所”づくりの物語 肝っ玉かあさんが奮闘する『ステージ・マザー』

都市生活も田舎暮らしも、人間の悩みは一緒?

『チャーリーズ・エンジェル』でおなじみのルーシー・リューは、シングルマザー役で出演。

 悩みを抱えているのは、ドラァグクイーンたちだけではない。シングルマザーのシエナは、いつもダメンズばかりと付き合い、痛い目に遭っていた。ダメンズは最初は優しいが、付き合い始めるとすぐに女を殴るようになる。自分の言いなりにしようとする。またまた、メイベリンの出番だった。DV男に対し、勇敢に立ち向かう。『アニマル・キングダム』でゴッドマザーを演じたジャッキーならではの貫禄が頼もしい。

 メイベリンはテキサスの平穏な田舎町で暮らしているが、都市生活も田舎暮らしも、人間の悩みはだいたい一緒。聖歌隊の指揮者として教会に通っているメイベリンは、暴力夫に苦しめられている妻や、ドラッグや酒に溺れる若者や失業者たちをずいぶん見てきたに違いない。みんな、悩みの根っこは同じ。不安感や心のいら立ちを一瞬でも忘れたいから、自分によく似たダメンズに走り、身近にあるドラッグや酒に依存してしまう。そして、その心のモヤモヤはメイベリン自身が感じているものでもある。世間体しか気にしない夫とは、ずっとすれ違いが続いていた。夫は「店を売って、早く帰ってこい」としか言わない。

 お金があれば、生活は安定する。でも、生活が安定しても、心の寂しさまでは埋めることはできない。心の隙間を覗くと、声にならない小さな声が聴こえてくる。自分の存在を誰かに認められたい、素顔の自分を知ってほしい、本音を交わせる仲間がほしいと。心の隙間をそっと閉じる。もしも、そんな願いを叶えてくれる場所があるのなら、そこは現代のユートピアと呼んでいいかもしれない。

 息子リッキーが遺したゲイバーのステージが、メイベリンたちにとってのユートピアとなる。物語のクライマックス、メイベリンは性別も年齢差も超えた仲間たちと共にステージに立つ。歌う曲は、日本でも「ヒーロー」が大ヒットしたボニー・タイラーの1984年の名曲「Total Eclipse of the Heart」(邦題『愛のかげり』)。ジャッキー・ウィーヴァーがとてもチャーミングな声で、しっとりと歌い上げる。

『ステージ・マザー』
監督/トム・フィツジェラルド 脚本/ブラッド・ヘンニク
出演/ジャッキー・ウィーヴァー、ルーシー・リュー、エイドリアン・グレニアー、マイア・テイラー、アリスター・マクドナルド、オスカー・モレノ、ジャッキー・ビート、エルドン・シール
配給/リージェンツ PG12 2月26日(金)より日比谷TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
c)2019 Stage Mother,LLC All Rights Reserved.
https://stage-mother.jp

最終更新:2021/02/26 20:00
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