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あなたの夫は「ユニクロのフリース」か?──W不倫マンガ『あなたのことはそれほど』から学べること

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

モテ男が不美人と結婚した理由

 美都は病院に患者として往診に来た涼太と“なんとなく”交際し、“唐突に”結婚する。もともと涼太のような男がタイプだったわけではない。昔好きだった光軌とは正反対のタイプだ。涼太とドラマチックな恋の駆け引きはない。美都の友人の言葉を借りるなら「とりあえずいい物件見つけて急いで買ったみたい」というやつだ。

 仕事に自己実現を図っているわけではない。打ち込める趣味があるわけでもない。そんな美都がアラサーに差し掛かり、そろそろ相手いないかなあと思っていたら、手頃な物件が現れた。ため息が出るほどの輝きはないけれど、気になる瑕疵も特にない。エキナカのユニクロに積まれているフリースのごとき、「今夜寒そうだし、一着買っとこ」的なアレだ。陳列が視界に入ってから会計までの所要時間2分、というやつである。

 麗華の場合は高校時代まで遡る。恋愛沙汰などまったく縁遠かった彼女だが、クラスメートの光軌がなにげなく下の名前の「麗華」と呼んだことで、突然スイッチが入ったのだ。不気味なほど積極的になった麗華は光軌に猛接近。卒業後すぐに付き合いだし、現在に至る。こちらは例えるなら、ユニクロ専門の残念女性が、会社帰りにショウウインドーで見かけたエルメスのコート(50万円)に魅了されて、その場で衝動買いしたようなものだ。

 美都も麗華も、綿密に戦略を立てて相手を探したわけではない。その瞬間の自分の心境、心のありようにジャストフィットする相手が、目の前にたまたま現れたので素早くハントしたにすぎない。1カ月前や1カ月後にまったく同じシチュエーションが訪れたとしても、ハントしたかどうかは怪しい。彼女たちの伴侶選びの根拠は「タイミング」なのだ。

 一方の男性陣はどうだろう。涼太は美都の誕生日に「僕と結婚してくれてありがとう」と言う。彼が美都を選んだ理由は、美都の見てくれが良く、隣にいれば自分を引き上げてくれる女性だからだ。涼太は自分が男性としては野暮ったい人間であり、仕事上でもプライベートでもキラキラ輝いていないことを知っている。だからこそ、美都というキャワイイ美人妻を持つことで、彼の自尊心は満たされるのだ。

「自分はこんな綺麗な女を妻にできるだけの男である」という自負こそが、涼太の幸福だ。彼にとって重要なのは、「綺麗な奥さんとの結婚生活」であって、美都が自分を本当に愛しているかどうかではない。だから涼太は美都の不倫が発覚しても別れようとしない。不義よりも結婚生活を失うことのほうが、彼にとっては不快なのだ。

 他方で、光軌の結婚理由については、考察のしがいがある。イケメンのモテ男が、なぜ不美人で地味でストーカー気味の面倒な女である麗華と付き合い、結婚し、子どもまで作ったのか。そのヒントは、光軌の妹のセリフにあった。

妹「ああゆう人(麗華)がもし彼女だったらさ、あたし少しは兄(にい)のこと見直す」
光軌「な、なんで?」
妹「本気で選んできたなって気がする……から?」

 ここには「あえてブスと付き合うリア充のイケメンは、なぜか尊敬される」の法則が働いている。モテ男である光軌とて誰かから、ひとかどの人間として尊敬されたい。そんななか、異性で唯一、恋愛感情や打算なしで自分を客観評価してくれるのが妹というわけだ。その妹の出した「高評価」が決め手となって、光軌は麗華と付き合った。麗華と付き合うことで、ひとかどの人間になれると思ったからだ。目的は麗華への愛ではなく自己愛である。それゆえ驚くべきことに、光軌が麗華に「惚れている」描写は作中にまったく見られない。

 涼太も光軌も、結婚することで自分の「ステータス」が上がるような相手を選んだ。ここで言うステータスとは、RPGにおける能力値のようなもの。LV、HP、MP、所持金など、定量的に示される複数パラメータの総合力である。

 涼太と光軌に「相手が好きで好きでたまらないから、添い遂げたいと思った」という感情は存在しない。自分の経験値を上げてくれる相手に目をつけ、結婚というプロジェクトに「取り組んだ」にすぎない。

 そんなバカな、結婚相手は『ドラクエ』のメタルスライムじゃねえぞと言うなかれ。世の中は、そういうことであふれている。「助手席に乗せる女のグレードと車の値段は比例する」とは一体どういう意味なのか。なぜ「悪妻は男を成長させる」などという謂があるのか。「付き合ってる女で男の度量がわかるよね」と、口の悪い(男性ではなく)女性が発言するのはなぜなのか。

 男は体裁を気にする、世間体を気にする。格好つける。それらが可視化された数値が「ステータス」だ。多くの男の人生目標はステータスアップであり、その「ステータス」の中に妻のスペックも含まれているのは自明。彼らは死ぬ瞬間までステータス向上に務める。人から尊敬されたいと願い続けて死ぬ(クリアした『ドラクエ』のレベル上げに延々執心する男性には特にその素質があるので、女性は注意されたい)。

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