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『青天を衝け』で描かれなかった黒船来航のウラ話! ペリーを撤退させた日本人のスゴい交渉力

ペリーは日本を完全にナメていた

『青天を衝け』で描かれなかった黒船来航のウラ話! ペリーを撤退させた日本人のスゴい交渉力の画像3
マシュー・ペリー

 約1年も前から幕府は、アメリカが黒船を「貿易開始できない場合は、戦争も覚悟で」送り込んでくるという話を、長崎にあったオランダ商館経由で得ていたのです。

 しかし、黒船の来航を知っていたのは、ときの老中・阿部正弘(演:大谷亮平さん)と数名程度だけ。残りの人たちには、情報がまったく与えられていなかったことは少々問題かもしれません。

 でもまぁ……、情報公開したところで、水戸の徳川斉昭(竹中直人さん)のように「軍事力で対抗すべき!」という人が99%だったでしょうから、逆に公開しなかったのは阿部正弘の英断だったと思われます。すべての戦争は交渉力が足りなかったから勃発しており、もっとも優先すべきは交渉術の洗練だと筆者も感じるからです。今さら頑張ったところで中途半端にしかならない軍事力増強に注力している暇など、なかったでしょうね。

 そうそう、前回のドラマでは、玉木宏さん演じる西洋式砲術家・高島秋帆(たかしましゅうはん)が、約10年ぶりに自由の身に戻ったシーンが出てきました。ちなみに高島が捕まっていた理由も、最近の研究を合わせて推測すれば、以下の通りです。

 高島はもともと長崎の裕福な一族の出で、貿易で「十万石の大名」に匹敵するような稼ぎを得ていました。オランダから武器弾薬を買い占めまくっていた「軍事マニア」なんですね。また数多くの門弟を抱えてもいましたが、金の流れにはかなりずさんだった様子。

 ずさんな金勘定の大金持ち、おまけに周囲には武器だらけ……本人がその気はなくても、門弟の誰かが……となれば、想像だけでも危ない人物ですね。そこに謀反の疑いを、役人にかけられたのが高島の逮捕理由だったといわれます。ドラマのイメージとは随分と異なるのでびっくりするかもしれませんが。

 余談がすぎましたが、まとめれば、阿部老中の手で黒船対策は周到に練られており、おまけに「外交官」だった林復斎の交渉術がすごかったので、ペリーを「撃退できた」というのが、ドラマで省略された「面白い部分」なのです。

 ペリーは「武力を見せつけ、脅せばなんとかなるだろう」程度にしか考えていなかったからですね。日本がナメられていたことがよくわかります。

「日本の鎖国制度は、漂流して外国人に助けられた自国民(=例の漂流民)をも受け入れないような非人道的な政策だからやめなさい」などともペリーは言ってきたのですが、そのネタで攻めてくることは阿部老中たちの「想定内」でした。

「鎖国はしているが、蝦夷地(北海道)で、我が国もアメリカ人を保護したことがある(だから鎖国=非人道的といわれる筋合いはない)」と言い負かしてしまったのです。他にも論戦はあったのですが、アメリカ側はグゥの音も出なくなり、交渉は終わったという事実は変わらないので、省略します。

 結局、ペリーたちは「1年後に再訪する!」と“捨て台詞”を残し、日本を去りました。創作物の中では、日本側がアメリカの黒船の突然の来航に驚き、なんとか時間稼ぎをすることくらいしかできなかった……と描かれることが多い、最初の黒船来航事件ですが、史実は違うようです。

 情報を知らされていない、99%の幕府関係者はそうだったかもしれませんが、日本側の「外交官」林復斎と、彼を抜擢した阿部正弘の交渉が巧みだったことは事実なんですね。

 まぁ……この後、「情報を共有しなかったのはまずかった」と流石に感じた阿部正弘が、みなの意見を求めたところ(ドラマでも描かれていましたよね)、軍事力強化派がワァワァ言い始め、阿部の求心力は一気に低下していくのでしたが。

 来週以降、どういう感じで政治のドラマに触れていけるか。それが、『青天を衝け』成功のキーとなると思われます。ちょっと楽しみですね。

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 12:03
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