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『家、ついて行ってイイですか?』恵比寿に住む泥酔シャンソン歌手とカオスとウォン・カーウァイ

美輪明宏「この番組は神様のお使いだった」

 2019年8月、番組スタッフは北海道の離島・礼文島に降り立った。でも、いくら島の人に声をかけても誰も家について行かせてくれない。困り果てたスタッフがとぼとぼ夜道を歩いていたら、コンビニ帰りの女性を発見した。彼女は現在81歳、礼文島歴は50年だそうだ。「家、ついて行ってイイですか?」と尋ねると、女性は了承してくれた。

 築100年の女性の家に到着すると、8月なのにストーブが焚いてあった。最近まで動脈硬化で入院しており、手足が冷えるそうだ。その際、病院から「救急車で来てください」と言われたのに、「救急車だと迷惑をかけるから」と彼女は自力で病院まで行ったという。「人に迷惑を掛けたくない」という性分は、昔からのようだ。

女性 「私、2歳のときから親いないんだよ? 亡くなって。父親がバーッと(母親を)ブン投げて、刑務所さ入ったの」
――お母さんは暴力で亡くなっちゃったんですか?
女性 「うん。新潟に母親の姉がいたんだわ。そこさ行ったの。そして、その伯母も亡くなったから」

「人に迷惑を掛けないようにしよう」という性分は育ちから来ているのかもしれない。というか、父が母を殺しただなんてどんな事件なのだろう……。

 その後、女性は中学校を卒業して自立。男性刑務所の事務員に就職した。すると、そこで情が移った受刑者と女性はなんと結婚した。解せない。なぜ、受刑者と結婚してしまうのか。父に似た暴力的な男に惹かれる遺伝子があるのだろうか?

「その旦那がまた暴力ふるって。本当に夜中、逃げて歩いたよ。一升瓶をラッパ飲みしながら探すんだよ、私を。怖いなんてもんじゃねえ。(周りの人が)かばうのさ、私を。そしたら、魔切り(小刀)持って(かばってくれた人の顔)をガってやったの。それで、また刑務所に入った」

 当時の法律では、2年間会わなければ夫婦の籍を抜くことができたらしい。だから、彼女は逃げ回って離婚した。

女性 「それから札幌で働いた、すすきの。そしたら、そこで『礼文島で一緒になれる人がいるから行ってみねえか?』って言われて。それで、仕事やめて(礼文島に)来たのさ」
――まだ会ったことのない人と結婚したんですか?
女性 「うん。それが運の尽きですよ」

 礼文島で結婚した夫は、お金を使って物を買うのが大嫌いな人だった。だから、食料を買おうとお金をもらおうとしても「何言ってんだ、馬鹿者」と怒鳴られる始末だった。

 夫との間にできた長男は、小学3年生のときに白血病になった。長男は旭川の市立病院に入院したが、父は息子の体調を心配せず、それどころか「馬鹿者」「家に来い」と電話で我が子を罵倒した。治療費は女性が武富士で借りた80万円で賄った。返済額は280万円。中学を卒業する頃、長男は「覚えてれ」と捨て台詞を残し家を出てしまった。それっきり、音信不通だ。

女性 「本当に地獄なんてもんでねえよ」
――礼文島に来てよかったですか?
女性 「ううん、ダメ」
――後悔してますか?
女性 「うん、後悔してる」

「この島に来てよかったなあと思うことって何かあります?」という質問に彼女は苦笑いをし、何かを思い出しながら約30秒沈黙。そして、思いを吐露した。

「この島さ来て、よかったなと思うことはないな」

 女性の人生に登場する男性が、みんな最低なのだ。彼女は人生の大半でDV被害に遭っている。「そういう星の下に生まれた」と言えば簡単だが、やはり理由はあるはずである。酷だが、要所要所で彼女が取った選択にも誤りはあっただろう。受刑者と結婚したのが負の連鎖の始まりだし、そういう時代とはいえ知らない男と結婚して尽くしたのも正解じゃなかった。母性が強く、人に尽くすのが当たり前になっているのかもしれない。頼る親族がいないから、どこにも逃げられないという事情も影響していただろう。

 部屋の隅に針が動かない時計が放置されていた。単4電池を交換しようと思ってもサイズが合わないから、そのままにしていたらしい。スタッフがたまたま持っていた単3電池を入れてあげると、時計は再び時を刻み始めた。止まっていた時間が動き出したのだ。

 この取材から1年6カ月後、礼文島を訪れたスタッフが再び女性の家へ行くと、そこに彼女の姿はなかった。転倒で足を骨折して入院生活を送っているらしい。スタッフはテレビ電話で女性から近況を聞くことにした。このときの彼女の表情に注目である。憑き物がとれたように柔らかな顔つきをしているのだ。ゲストの美輪明宏は女性の変化について見解を述べている。

「この番組は神様のお使いだったわね。全部吐き出しているうちに浄化されて、何もかも許す気持ちになっていくのね」

 決して、今まで受けた傷や苦労がなくなったわけではない。でも、人との対話で気持ちに整理がつくこともある。他者に吐き出し、前へ進むことができたのだ。面識のない者だからこそ吐き出せる話だってあるだろう。スタッフは女性に近況を尋ねた。

――時計、まだ動いてます?
女性 「動いてますよ!」
――いつでも言っていただければ、電池入れに行くんで。僕がまた礼文島に行くまで元気でいてくださいね。
女性 「元気でいますので。お兄ちゃん! 元気でね! 怪我だけはしないでね! また会う日、待ってるからね」

 女性の元には、息子が孫を連れてお見舞いにも来るようになったらしい。

 過去に取材した人たちの“その後”を追った今回。ほんの少しの時間の経過でも、それぞれの人生は大きく変化したと知ることができた。「前を向いて生きていかなければ」と思わせてくれる2時間SPだった。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2021/03/11 00:00
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