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【田沢健一郎/体育会系LGBTQ】陸上部監督との“かなわぬ恋”に泣いたゲイのスプリンター

文=田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)

――社会に広がったLGBTQという言葉。ただし、今も昔もスポーツ全般には“マッチョ”なイメージがつきまとい、その世界においてしばしば“男らしさ”が美徳とされてきた。では、“当事者”のアスリートたちは自らのセクシュアリティとどのように向き合っているのか――。(月刊サイゾー2021年4・5月号より転載)

【田沢健一郎/体育会系LGBTQ】陸上部監督とのかなわぬ恋に泣いたゲイのスプリンターの画像1
(写真/佐藤将希)

 遠くにそびえる山々が美しく見える陸上競技場。

 フィールドにはアルファベットで大きく大学名が描かれている。トラックは土ではなく、ポリウレタンを使った全天候型。それだけで、この大学がスポーツに力を入れていることがうかがえる。

 練習中の選手たちの中から何人かがトラックに設けられたスタートラインにつき、クラウチングの姿勢から、スタートの合図と共に飛び出す。すぐに集団から抜け出したのは体の大きなスプリンター。後続を引き離し、あっという間に100メートルを駆け抜けてゴール。彼は心地よさそうな表情でタイムを確認していた。

「将来的には世界陸上やオリンピックに出てみたいですけど、うーん、どうかなぁ? とりあえずは大学トップクラスを目指してはいますが」

 スプリンターとしての将来像をそう語るのは、19歳の永田豪士(仮名)。東京にある、ここ数年でスポーツ強化に取り組み始めた大学の陸上部に所属している。もうすぐ2年生という彼は180センチを超える長身。上半身、下半身共に、強靱で引き締まった筋肉をまとっていることが洋服越しにもわかる。

「いや、フィジカルは全然ですよ。高校時代の体のまま、ここまで来ちゃったというか。もう少し体重を増やし、ウェイトトレーニングもして、自分の“エンジン”をもっと大きくしたい」

 近年の世界陸上やオリンピックを見ればわかるように、海外の短距離の選手たちの多くは屈強な体つきをしている。今の時代、短距離に関しては日本人選手もフィジカルを鍛え上げ、パワーを身につけなければ世界とは戦えないのだ。まだ10代ながら大型でパワフルさを感じさせる豪士は、そんな時代を反映する新しい世代のスプリンターに見える。

 まさに将来を嘱望されたアスリート。

 ただ、豪士には陸上部の仲間にも家族にも話したことがない秘密があった。

 彼はゲイなのだ。

「なんとなく気づき始めたのは小学校4年くらい。男同士のふざけ合いがエスカレートして、チンチンをしゃぶり合う遊びをしたんですよ。自分はそれが悪い気がしなかった」

 友人たちの「うえー!」「キモい!」といった反応とは異なる感覚を持っている自分。

「それをなんとなく心の中で引きずったまま、中学生になって。2年生のとき、学校で性的マイノリティを取り上げる授業があったんです。そこで知識を得て『自分は同性愛者かも』と自覚し始めました」

 ただし、「厳密に言えば、ゲイではなくバイセクシュアルなんですけど」と豪士は言う。

「中学や高校では、彼女も普通につくって……というか、むしろ何人も付き合いましたから」
 背が高く、端整な顔立ちで、スポーツが得意。10代の男子であれば、それだけで女子にモテる要素。初めて彼女ができたのは小学校4年だという。

「早いと言われますが、付き合うといっても遊び。彼氏彼女ごっこ、ですよ。相手から告白されて『まぁ、いいか』みたいな」

 そんな内情だから、終わりもあっという間に訪れた。豪士はバイセクシュアルというよりも、モテるがゆえに自身がゲイと気づく前から女子とも付き合ってきた、ということなのかもしれない。ただ、ゲイとしての自分を感じ始めた頃と時期がリンクするのは偶然だろうか。

「今思えば、女の子と付き合っていたのは、自分の中で若干カモフラージュしようとするところがあったのかもしれません。自覚はしたけど、最初は認めたくない、という気持ちも強かったので。“普通とは違う自分”を受け入れたくなかった」

田舎で有名な高校生だからカミングアウトは怖かった

【田沢健一郎/体育会系LGBTQ】陸上部監督とのかなわぬ恋に泣いたゲイのスプリンターの画像2
(写真/佐藤将希)

 豪士の故郷は東日本にある人口約20万人の地方都市。実家は町場にあったが、それでも田舎特有の閉鎖的なコミュニティは存在した。“異端者”“よそ者”への目は厳しく、偏見も激しい。

「もし地方の街でカミングアウトしたら、正直、怖いというレベルではないです。いじめに発展しても何もおかしくはない。自殺するのと同じです」

 ここまで豪士がカミングアウトを恐れていたのは、自身が地元で顔を知られる存在になっていたからでもある。スプリンターとして才能が開花し始めていたのだ。

「陸上を始めたのも小学4年。足が速かったので、学校のクラブの先生に誘われました。最初はイヤイヤで、なんとなく続けていただけだったんですが、6年生のときに100メートルで親友に負けたんです。それをきっかけに本気になりました。単純に悔しかったんですよ」

 競技を問わず、負けず嫌いはアスリートに欠かせない要素だ。そして、一流の選手は競技人生の中で、必ずターニングポイントになる――つまり成長のきっかけになる負けを経験しているものである。

 中学でも迷わず陸上部に入り、必死に練習した。すると、体の成長も相まって記録が一気に伸びる。親友に勝つどころか、中3のときには100メートル県王者に輝くまでに。練習をすればするほど速く走れるようになるのが楽しく、爽快で、自信にもなった。進路を決める頃には複数の陸上強豪校から勧誘の声がかかり、その中から選んだ県内の高校にスポーツ推薦で進学。高校でも順調に結果を出し、全国大会にも出場する。気がつけば、地元の高校生の間では、ちょっとした有名人になっていた。

「高校時代、買い物をしている写真がツイッターに投稿されていたんです。後ろから誰かに撮られていたみたいで」

 陸上で活躍していたとはいえ、自分がそうした存在になっていたとは思わなかった。

「マズい、これは目立つことはしないほうがいいな、と思いましたね。それこそ、もし男の子と仲良くデートっぽい雰囲気で歩いていたりしたら確実に撮られる、とも」

 このエピソードからもうかがえるが、豪士は周囲の状況を客観的に見て物事を判断できる“賢さ”や“理性”を持っている。不用意なSNSへの投稿で炎上する若いアスリートとは無縁のタイプだ。だから、“男らしさ”が強調されるマチズモかつミソジニー的な体育会の世界とも、うまく折り合いをつけることができた。

「いわゆる男っぽい体育会カルチャーへの嫌悪感はそれほどありませんでした。一致団結して目標に突き進んだり、明るいノリ自体は嫌いではなかったので。もちろん、ゲイであることは隠していたから、恋愛話なんかは、みんなが女の子のことを話しているのを、自分は男に置き換えて話を合わせてはいましたけど。作り話もよくしましたね」

 それでも、記録が伸びず、本人いわく「ウジウジと」悩んでいたとき、父親に「男らしくいろよ!」と叱責され、反射的に「男らしいって、なんだよ!」と言い返してしまった。知らず知らずのうち、心の中にストレスを抱えていたのかもしれない。ひとりになってゲイである自分について考え始めると、軽く流すことができず、つい深く悩みがちな自分がいる。性に関しても常に悶々としていた。

「『オレ、この先どうなるかな、普通に家庭とか持てるのかな』とかたまに考えたりして。だから、彼氏をつくりたいなんて本気で思うこともない。その頃にはゲイのマッチングアプリがあるのも知ってはいましたが、使わないと決めていました。どっちにしろ、田舎にいるうちはゲイであることをオープンにするのは怖かったし」

 相変わらず女性からはモテた。付き合った彼女もいた。セックスもできた。だが、結局、本気にはなれない。行為ができるという点で豪士はバイセクシュアルなのかもしれないが、あくまでも心の内にいるのはゲイである自分。一方で、田舎の閉鎖性や将来への不安を感じると、ゲイとして生きていくことに振り切れない自分もいる。

「彼女と過ごす時間も、男と付き合うことの代替行為みたいな感覚しかなくて……会うのも週に1~2回で十分。シーズン中で重要な大会前は練習に集中したいから、会うこともしませんでした」

 陸上で走る楽しさと喜びに目覚めていた豪士。ストイックに陸上へと取り組むこともまた、代替行為のひとつだったのかもしれない、と話す。ただ、豪士が陸上に打ち込めたのは、もうひとつ別の理由もあった。

 恋をしたのだ。

先生が大好きなのに想いは知られたくない

「好みのタイプですか? 年上が好みなんです。見た目はハンマー投げの室伏広治さんやKing Gnuの常田(大希)さんがタイプ。でも、外見はそのとき次第。それよりも大切なのは内面で、一本、芯が通っている人が好きです」

 その好みにバッチリとハマったのが、高校の陸上部の監督だった。

「先生は40代の既婚男性。普通に考えれば、絶対にかなうはずのない恋なんですけどね」

 監督はいわゆる“熱血指導者”だった。生徒でもある選手たちのことを心から気にかけ、選手一人ひとりの人間性と能力を育もうと、日夜、指導に邁進していた。当然ながら、豊かな才能に恵まれた豪士のことも熱心に指導してくれた。「田舎のちょっと足の速い子」だった豪士を、全国、そして世界の舞台にステップアップさせようと、本気で向き合ってくれた。その姿勢に惹かれた。

「先生のこと、カッコいいと思いました。でも、本気で両想いの関係に持ち込みたいという感じではなくて、自分が一方的に想いを寄せていただけ。先生が僕に対して『こうなってほしい』と考えている理想の選手になりたかった。ひとつ上のレベルに到達して先生に認められたい。あれって、今思い返すと、一種の恋愛だったと思うんです」

 アスリートにとって指導者の存在は大きい。指導者次第で選手やチームが驚くほど変わるのは、ちょっとスポーツに詳しい人であれば、誰もが認めることだろう。

 また、理想的な指導者と選手の関係は、疑似恋愛に例えられることもある。「監督のために」「監督についていきたい」といった気持ちを、競技や練習への強いモチベーションにするわけだ。スポーツ界のセクハラ・パワハラ問題には、こうした関係性によるボタンの掛け違い、指導のいきすぎが背景というケースもある。そこまで極端な話でなくても、「監督に惚れた。この人のために優勝したいと思った」といった類いのコメントは、スポーツ界ではそれほど珍しいものではない。かつて有森裕子や高橋尚子など数々の名女性ランナーを育成したことで知られる故・小出義雄氏は、「恋愛のコツと指導のコツは似ている」と著書に記したこともある。豪士を指導した監督も、その意味では、きっと優れた指導者だったのだろう。実際、豪士はその指導を受けたからこそ、今もトップを目指すアスリートとして活躍しているのだから。

「先生とは今もLINEでやりとりはしています。もちろん、自分の気持ちに気づかれてはいないはずですよ。同級生にもまったく気づかれていなかったと思います。バレないように、慎重に隠していましたから」

 優れた指導者は選手をよく観察しているものであり、勘もいい。選手のちょっとした変化やメンタルの好不調を察知するのも早い。豪士はそう思っていても、監督は彼が自分にほかの選手とは何か異なる感情を抱いていることくらいは気づいていたかもしれない。

「恋愛だったとは思いますけど、当時はそこまでの自覚があったかなぁ……難しいなぁ……。ただ、自分の中で監督が特別な存在であったことは確か。そうだったと信じたい……うーん、やっぱり、自分の中では恋愛対象だったんでしょうね」

 自問自答するように豪士は当時を振り返る。

 高校を卒業して間もなく、豪士は上京する新幹線の中でひとり、こっそりと泣いた。

「先生との別れがツラくて、『早く忘れてしまいたい』と思っていたら涙が出てきて」

 相手が男でも女でも、片想いの切なさは同じだ。

「当時は先生が大好きだったのに、先生には自分の気持ちに気づいてほしくなかったんですよ。気づかれる、自分の想いを知られることで、今の先生との関係、状況が壊れてしまうことが怖かった。今の状況だけでも僕は十分幸せなのに、これ以上、先生に何かを望んではいけない、と」

 かなわぬ恋に自分なりに区切りをつけ、豪士は東京で新たな暮らしを始めた。

 人目が気になる田舎と違い、都会にはゲイとしての自分を素直に出せる世界も存在する。スプリンターとしてさらなる成長を目指す一方、心を寄せられるパートナーに出会うこともできた。

「40代で、しっかりと仕事もしていて、芯のある人。体から入るのではなく、2人でしっかりと話をして、信頼できる人だと思って、付き合い始めました。そういったプロセスを経ているから、過去の女性との付き合いとは気持ちが違う。『男が好きな自分のままでいいんだ』という安堵感があって、とにかくホッとできます」

 先生のことは、今ではいい思い出になりつつある。ただ、それでも悩みは尽きない。

「満たされてはいるんですが、逆にちょっとストイックさが欠けたかな、と思うこともあって。高校時代は、かなわない気持ちを競技にぶつけ、死に物狂いで練習して、先生が理想とする選手になろうとしました。今はもう、そんな気持ちにはなれないのかなって。陸上を愛していないわけではないんですよ。今の僕をつくってくれた大切なものですから。パートナーも次の日が練習であれば、遊んでいても早めにお開きにしてくれたりと、アスリートである自分を理解して応援してくれています。そんな彼のためにもがんばりたいとは思っているんですけどね」

 将来を嘱望されたアスリートといえど、まだ19歳。信頼できるパートナーと初めて交際して1年もたっていない。陸上選手としても、ひとりの人間としても、“大人”になるための経験を積んでいる真っ最中。豪士の人生は、これからが本番だ。

田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)

1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスの編集者・ライターとなる。野球をはじめとするスポーツを中心に、さまざまな媒体で活動している。著書に『あと一歩!逃し続けた甲子園 47都道府県の悲願校・涙の物語』(KADOKAWA)、共著に『永遠の一球 甲子園優勝投手のその後』(河出文庫)などがある。

最終更新:2021/06/05 00:28

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