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「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録 体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』

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単独での著書『さよならテレビ』を上梓した阿武野勝彦プロデューサー。

 ドキュメンタリーは地味で、退屈。そんな固定観念を根底から覆してみせたのが、東海テレビだ。東海テレビ報道局ドキュメンタリー班が制作した作品は、東海地区3県でオンエアされた後、単館系ながら全国公開され、毎回のように話題を呼んでいる。ドキュメンタリー映画に興味がない人でも、『ヤクザと憲法』『人生フルーツ』『さよならテレビ』などのタイトルは耳にしたことがあるのではないだろうか。

 1万人動員すればヒットとされるドキュメンタリー映画の世界において、暴排条例に追い詰められる暴力団の実情に迫った『ヤクザと憲法』(2016年)は動員4万人を突破。建築家夫婦の静かな日常生活を記録した『人生フルーツ』(2017年)は、26万人を動員するロングランヒットとなった。視聴率に追われ、疲弊したテレビ局の内情を明かした『さよならテレビ』(2020年)は、テレビ業界に大きな波紋を起こしている。

 これらの話題作、問題作を放ってきたのが、東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーだ。2019年に定年を迎え、現在はゼネラルプロデューサーという立場となり、今年6月にこれまで手掛けてきたドキュメンタリー作品の数々を振り返った著書『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』(平凡社新書)を上梓している。東海テレビのドキュメンタリー作品をすでに観た人も、まだ観ることができずにいる人も、テレビ界の常識を次々と破ってきた阿武野プロデューサー率いるドキュメンタリーチームの破天荒さが楽しめる内容となっている。

 第1章「テレビマンとは何者か?」で取り上げられるのは、東海テレビ自身を丸裸にしてしまった問題作『さよならテレビ』だ。テレビ局の裏側を暴いたドキュメンタリーの、さらにその裏側が明かされる。このドキュメンタリー作品の「核」となっているのは、2011年8月に東海テレビの生情報番組で起きた「セシウムさん事件」。社外スタッフが用意したダミー用のテロップ「怪しいお米 セシウムさん」が、誤ってオンエアされてしまった。この放送事故はSNSで全国に拡散され、東海テレビは「マスゴミ」とバッシングされた。

 阿武野プロデューサーは本著の中で、「セシウムさん事件」が起きた局内の状況について触れている。長引く不況、ネット文化の台頭、若者のテレビ離れなど、経営が苦しくなったテレビ局は経済効率を求め、社外スタッフはその煽りを受けて、厳しい締め付けに遭っていた。深夜残業しても社外スタッフにはタクシー券は与えられず、スタッフ弁当は古い米が使われた黄色いご飯だったことが語られている。テレビ局が華やかだったのは過去の物語。格差社会が進むテレビ局の現場には、社外スタッフの不満が溜まっていた。「セシウムさん事件」を起こした社外スタッフは事件後すぐに解雇され、番組は打ち切られているが、この事件は起きるべくして起きたと阿武野プロデューサーは考えている。

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