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「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録 体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』

ハンデを「豊かさ」に変えてきた東海テレビ

「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録  体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』の画像4
『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』(平凡社新書)

 ドキュメンタリー制作は予算が限られているし、ローカル局ゆえに取材対象も限定されがちだ。でも、東海テレビのドキュメンタリー班は、低予算やローカル局というハンデを、逆に「豊かさ」に変えることに成功しているように思う。ローカル局だからこそ、身近な題材を長期間にわたって取材することができている。また、予算が限られているため、スタッフは他のニュースの取材も並行して行わなければならないが、そのことが作品に新しい視点をもたらすこともあるのではないだろうか。東海テレビのドキュメンタリーを観ていると、本当の豊かさとは豊潤な予算や恵まれた環境を指すのではないことが分かる。

 2018年に亡くなった女優・樹木希林さんは「名張毒ぶどう酒事件」を題材にしたドキュメンタリードラマ『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(2013年)に出演し、「名古屋闇サイト殺人事件」を扱ったドキュメンタリードラマ『おかえり ただいま』(2020年)では、メインキャストに浅田美代子を推すなど、東海テレビの作品に深く関わっている。おそらく、希林さんは東海テレビが醸し出す「豊かさ」に共感していたのだろう。

 東海テレビの一連のドキュメンタリー作品は、DVD化されていない。日本映画専門チャンネルで特集放映されたことはあるが、ネット配信も行っていない。東京のインディペンデント系配給会社「東風」に宣伝・配給協力してもらい、ドキュメンタリー映画の上映で定評のあるミニシアター「ポレポレ東中野」、地元愛知では「名古屋シネマテーク」が旗館となり、じっくり時間をかけて全国順次公開するというスタイルを守っている。阿武野プロデューサーが信頼を寄せる座組みによって、東海テレビのドキュメンタリー映画は、全国の観客へと届けられる。

 テレビと違って、映画館で映画を観るという行為は、とても能動的なものであり、大きなスクリーンから観客はさまざまな発見を得ることができる。また、映画を観た感動を、多くの人たちが共有し合うことになる。視聴率や興収成績といった数字ばかりを追いかけていると、大切なものを見逃してしまう。東海テレビのドキュメンタリー作品が、映画館で上映される機会があれば、ぜひ足を運んでみてほしい。本当の豊かさとは何かを考える機会になるはずだから。

最終更新:2021/07/28 19:00
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