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「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録 体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』

「セシウムさん事件」後も続く放送事故

「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録  体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』の画像2
テレビ業界に大きな波紋を呼んだドキュメンタリー『さよならテレビ』。(c)東海テレビ放送

 被災地の農家を傷つけた「セシウムさん事件」を猛省し、社内改革を進めたはずの東海テレビだったが、夕方の報道番組内の「働き方改革についての覆面座談会」で顔出しNGの参加者の顔が映ってしまう放送事故が起きてしまう。この様子はドキュメンタリー作品『さよならテレビ』の中でも取り上げられている。実はこの失敗を犯したのは、制作進行中だった『さよならテレビ』を担当していた編集マンだった。その編集マンは『さよならテレビ』のスタッフから外してほしいと申し出たが、阿武野プロデューサーは彼の編集マンとしての能力を評価した上で、以下のような言葉で慰留している。

「放送で重大なミスを犯した自分をドキュメンタリーに織り込まざるを得ない。そういう君にしか、この仕事はできない」

 自分が犯した放送事故を、自分が編集するドキュメンタリーの中に織り込むのは、「内臓がねじれそう」になる作業だったに違いない。『さよならテレビ』はテレビマンが自分の育ってきた職場を、自身の手で切開手術するような流血覚悟のもとで制作されたドキュメンタリーだった。

 本著の面白さは、「ドキュメンタリーの題材に、タブーはなし」を謳う阿武野プロデューサーが手掛けた『平成ジレンマ』(2011年)から始まる東海テレビのドキュメンタリー映画の制作内情に加え、テレビ放送後や劇場公開後にどのような反響を呼んだのかも書かれていることだ。『さよならテレビ』を東海地区で放送した後は、阿武野プロデューサーも、『さよならテレビ』を企画した圡方宏史ディレクターも、局内で1年以上にわたって針のむしろ状態だったそうだ。

 放送後に局内で開かれたティーチインには厳しい声が寄せられた。

【その時の議事録……。「報道の苦悩を新鮮に見た」「弱さの持つ力を知った」「これが東海テレビの真の姿か」「制作者の奢りだ」「表現のために仲間を売った」「会社のイメージを棄損した」……。賛意を示す意見は少数で、否定的な発言が大勢を占めた。】

 約80人の社員が集まったこのティーチインは、『さよならテレビ』に映し出された仲間への同情や番組への怒りが充満し、阿武野プロデューサーが願っていたようなテレビの未来を語り合う建設的な場にはならなかった、と記してある。

 しかし、ティーチインの後、いくつかのメールも届いた。「あの番組が面白いと言えない会社が怖ろしい」「会社への危機感がひしひしと伝わってきた。応援してます」。東海テレビのドキュメンタリー作品は、そんな少数派の声と苦悶しながらも前へ前へと進もうとする阿武野プロデューサーたちの情念によって支えられている。

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