『青天を衝け』で注目したい岩倉具視 「錦の御旗」の“デザイン問題”と「ええじゃないか」扇動疑惑

文=堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

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『青天を衝け』公式Twitterより

 東京五輪関係で放送休止になっていた『青天を衝け』の放送が、ひさしぶりに再開されることになりました。タイトルは「パリの御一新」(第24回)。予告編の映像からすると、フランス滞在中の渋沢栄一が経済人フリュリ=エラールに連れて行かれた証券取引所で、国家の命運を左右する近代的な経済の仕組みを学ぶのがどうやら放送のメインとなりそうです。

 国内では、徳川慶喜による「大政奉還」後の社会不安が描かれるでしょう。「鳥羽伏見の戦い」で旧幕府軍は惨敗。大坂に部下の大半を残したまま江戸に逃げ帰った徳川慶喜は、自分を幽閉する形で謹慎生活に入ってしまいます。しかし、明治新政府軍がそれしきで矛を収めるわけもなく、江戸に向かって進軍を開始。旧幕府側にとっては最悪のシナリオで事態が進む中、渋沢喜作(成一郎)らは、新政府軍と対峙するべく、あの有名な「彰義隊」を結成する……などの激動が描かれると思われます。

 ……が、またすぐに今度はパラリンピック中継のため放送休止してしまうのですよね。製作側もそれを見越し、このあたりの動向についてはダイジェスト的にサラッと描いて終わりになるかもしれないなぁ、とも考えてしまいます。明治新政府軍が(基本的に)無抵抗だった旧幕側を武力攻撃した事実は否定しようがなく、日本史上最大規模の内乱・戊辰戦争の日々をきちんと描こうとすればするほど、陰惨な映像になることは避けられません。

 ただ、慶喜の側近だった松平容保などがドラマではこれまで目立って登場していないことを見ると、「鳥羽伏見の戦い」での不名誉な敗戦や、彰義隊の「上野戦争」、さらに「会津戦争」などのシーンは、元・新選組副長の土方歳三(町田啓太さん)や、彼のもとへ合流する渋沢喜作(高良健吾さん)の目を通して断片的に描かれるだけに終わりそうですね。

 個人的に今後、注目したいのは倒幕派の公家・岩倉具視(山内圭哉さん)による「錦の御旗」の“完成形”が、本作『青天~』ではどういう形で登場するかです。

 ドラマ内ではとくに説明されませんでしたが、半紙に描かれた「錦の御旗」のデザイン案を岩倉が薩摩藩の大久保一蔵(利通)たちに見せつけるシーンがありましたね。史実では、岩倉が腹心の部下・玉松真弘に作らせたデザイン画であると考えられていますが、本来あるべき天皇の権威などは反映されていません。「あの旗を掲げて進軍せよ」という天皇による武力討幕命令と共に、「錦の御旗」は岩倉が偽造させたものでしたから。倒幕および、天皇中心の国作りの復活(=王政復古)こそ“大正義”とする岩倉は、その実現のためにかなり汚い手段を取ることも厭いませんでした。

 劇中に出てきた図案は、模様がアシンメトリーの見慣れぬデザインで、驚いた方もいらしたかもしれません。ちなみに、あのデザインを基にした「錦の御旗」の“完全復元版”が『西郷どん』(2018年)で初お目見えとなったのですが、デザイン画のアシメな図案のままで再現されてしまっており、筆者は驚愕してしまいました。あれはあくまで“図案画”であり、デザイナーの意匠が織り手にわかりやすく伝わるよう、「地の生地はこういう感じ」「そこにこういう紋様を」といった指示を記すためにアシンメトリーにしただけで、完成時のデザインがアシンメトリーであることを意図していたわけではないはずなのですが……。

 複数存在していたはずの「錦の御旗」ですが、それらの行方は、長い間、わからなくなっていました。しかし2016年、大分県北部の宇佐市安心院町の旧家で「錦の御旗」の実物だと思われる資料が発見されました(毎日新聞2016年12月8日付「錦の御旗 旧家に現存 明治維新前、地元の志士が拝領し決起 宇佐・安心院 /大分」)。

 こちらを見る限り、紋様は旗の全面にあることがうかがえ、やはりアシメデザインではなかったと思われます。ただ、『西郷どん』の「アシメの御旗」は一回あたり約6000万円という大河ドラマ制作費の中から捻出され、わざわざ制作されたものでしょう。あれが『青天~』でも再登場することになるのか。あるいは実物同様に紋様が全面的に張り巡らされたデザインに改められているのか。もしくは映らない可能性も……などと、今から興味が尽きない筆者なのでした。

 ところで、『青天~』の岩倉具視を見ていると「この岩倉なら、やりかねないなぁ」とつい思ってしまうのが、幕末の有名な民衆暴動事件である「ええじゃないか」を岩倉が煽動していたのではないかという疑惑です。

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