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朝鮮人強制連行をめぐる重要裁判の展望―日本の未来は多様性社会か排外主義か?

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 今年7月16日から18日まで、大阪府立労働センター「エル・おおさか」で「表現の不自由展かんさい」が開催された。会場周辺で抗議活動や爆竹入り抗議文の郵送などあったものの、展示会は無事終了した。

 そもそも表現の不自由展は、ニコンサロン「慰安婦」写真展中止事件(2012年)を受けて、それに抗議する人たちが「検閲事件を可視化しよう」として旗揚げたことに端を発す。その後の活動は紆余曲折あるが、一般に知られるようになったのは「あいちトリエンナーレ2019」で慰安婦像や昭和天皇の肖像を燃やすシーンがある映像などが展示され、物議を醸し出したことだ。今では金メダル噛みつき事件で知られる河村たかし名古屋市長が、大村秀章愛知県知事と対立するきっかけにもなった。

 愛知県の問題で議論されていたのは、表現の自由はどこまで許されるのか、政治的主張が強い展示会への公金支出はふさわしいのかの2点だ。しかし、展示会を推進する実行委員会や中止を求める市民団体との対立が深まり、次第に議論は場外戦の様相となっていく。

 こうしたなか大阪で開催された「表現の不自由展かんさい」にも中止を求める抗議が相次いだため、会場となる府の所有施設「エル・おおさか」は「安全確保が困難」として、会場の利用承認を取り消した。しかし、取り消しに納得のいかない実行委員会が取消処分の執行停止を大阪地裁に申し立てたことにより、戦いのリングは司法の場に移った。

 最終的には、地裁が申し立てを認め、高裁も「エル・おおさか」側の抗告を棄却したため、展示会は予定どおり開催されることになったというのが事のいきさつだ。

 これらの問題について、都内で会社を経営する傍ら歴史問題に取り組む在日朝鮮人の男性は、「日本人は“多様性”という言葉は知っているけど、実際に起きている差別や人権侵害の現状はほとんど知らない。しかし、在日のような日本社会のマイノリティは、いつもその壁にぶち当たっている」と日本人の人権意識に苦言を呈する。

日本の将来を占う群馬の森追悼碑裁判

前出の在日朝鮮人の男性によれば、「日本が多様性社会と排外主義のいずれかを選択するのかの分水嶺となる、不自由展かんさい裁判と並ぶ重要な裁判がある」という。それが群馬県立公園「群馬の森」(高崎市)にある朝鮮人強制連行犠牲者追悼慰霊碑をめぐる裁判だ。

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日本語・ハングル・英語で記された「記憶 反省 そして友好」の文字

 かつて群馬県には、軍用機の約3割を生産した中島飛行機株式会社(現在の株式会社SUBARU)の軍需工場があり、草津温泉がある県の北西部には鉱山があったため、多くの朝鮮人労働者が動員されていた。朝鮮人犠牲者追悼碑保存を呼びかける団体の関係者はその規模について話す。

「群馬では記録に残っているだけで1万2000人、実際には1万5000人近くの朝鮮人労働者がいたのではないかと推測され、その多くが低賃金で過酷な労働を余儀なくされたと聞いています。そのような劣悪な労働環境の中で、名前が確認されているだけでも数十人の朝鮮人労働者が亡くなりました。当時の資料が少なく確認は困難ですが、犠牲者はさらに多いといわれています」(朝鮮人犠牲者追悼碑保存を呼びかける団体の関係者)

 上述の追悼碑は、日本による朝鮮人強制連行について、「広く国民に伝え、正しい歴史認識を確立する」ことを目的として結成された地元有志の会が2004年に建立したものだ。「記憶 反省 そして友好」と刻まれた追悼碑は10年目の2014年に設置許可を更新される予定であったが、群馬の森を管理する群馬県は更新を認めなかった。その理由は、碑文の内容や追悼式典での発言について、利用規則に違反する「政治的行事」であるとの指摘が多数寄せられたというものだ。当然、有志の会側は県の決定を不服として、不許可処分の違法性を問うために前橋地裁に提訴した。

 不自由展かんさい裁判と群馬の森追悼碑裁判はそれぞれ論点が異なるものの、いくつかの法理論で横串を刺すことで論点を整理できる。それは「パブリック・フォーラム」と「敵意ある聴衆の法理」だ。

 いずれも聞きなれない法律用語なので、少し説明を加えておきたい。

 まず「パブリック・フォーラム」とは、市民が自由に出入りできる道路や公園、広場などを表現の場として用いる時には、所有権や管理権の制約を受けざるを得ない。しかし、こうしたときも表現の自由を可能な限り保証しなければならないという見解だ。この見解に従えば、群馬の森はパブリック・フォーラムとなり、表現の自由への配慮が求められる。

 次に「敵意ある聴衆の法理」とは、正当な言論活動を行っている人間の言論に敵対する人間が存在し、ただ混乱するという理由で、むやみに規制してはならないという原則だ。たとえば、ある演説が聴衆をあおり、聴衆が暴力をもって演説者を脅かしているとする。この場合、公権力としては演説者の表現の自由を制約して聴衆を抑えてはならない。聴衆を抑えて演説者の表現の自由を守るべきだと考えられている。

 両者とも英米法の判例の中で主張されてきた法理論であり、日本の最高裁判決でも、前者は吉祥寺駅ビラ配布事件で、後者は泉佐野市民会館事件で実際に採用されている。

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