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アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放

自分らしい生き方を見つける大冒険へ

アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放の画像3
C) 2020 Maybe Movies ,Nørlum ,2 Minutes ,France 3 Cinéma

 そうした集団の中での「女らしさ」「男らしさ」の強要のため、マーサは深く傷つくのだが、騎兵隊の斥候の男と出会ったことで、運命が大きく変わることになる。男はマーサの優秀な能力を知って「軍に入ったら大出世だよ」などと褒め讃える。そんなマーサは、「いい男だし結婚すれば?」などと話している女の子たちへ、「結婚しか頭にないの?彼のような生き方、自分でもやってみようって気にならない?」と嬉しそうに言ったりもする。やっと、彼女は理想とする生き方を見つけたのだ。

 その後、とある事件が起こったため、マーサは幌馬車隊から離れて、たった1人で(途中で仲間も得て)大冒険をすることになる。もちろん不安でいっぱいの旅路であり、さまざまな困難にも直面するが、そのことがかえって彼女が自分らしい生き方を探し、そして成長する大きなきっかけになる。

 その過程は予想外の事態に次々に遭遇するハラハドキドキのアドベンチャーとして大いに楽しめるし、「時には今いる集団から離れ、1人で考えたり行動したり、別のコミュニティに飛び込んで、そこでの価値観や生き方を知ってみるのもいいかもしれない」という、やはり寓話として見られる。前述したように、辛い「女の子であることの制約」が序盤から丁寧かつ容赦なく描写されているだけに、その冒険がより痛快無比で(怖くもあるが)楽しく希望もあるものと思えるようになっている。

 なお、マーサはスカートを脱いでズボンを履き、髪も短く切って少年のように自由に駆け回ることになるが、決して男の子になりたいわけではない。マーサは一貫して、自分が「女であること」にも誇りを持っている。実在のカラミティ・ジェーンも、男性の服しか着ていなかったと思われがちだが、実際はコロコロと服装を変えていたのだそうだ。

 「女らしさ」「男らしさ」の価値観から解放され、自分とは違う性別に盲目的に憧れることもなく、あくまで「自分らしさ」をもって生きていくマーサ。困難を乗り越えるために必要とあれば、慣習など気にせずに、自分の力で道を切り開くその姿に、勇気と希望をもらえる方はきっと多いことだろう。

ハイクオリティの吹き替え、そして監督の前作もおすすめしたい

アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放の画像4
C) 2020 Maybe Movies ,Nørlum ,2 Minutes ,France 3 Cinéma

 本作はアニメーションとしてのクオリティもとても高い。「輪郭線がない」絵柄は簡素にも思えるが、日本のアニメにない独特の味わいがあるし、それこそ絵画のように美しい。1つ1つの動作も細やかで、「実際の人間もこういう動きをするよなあ」とまで思わせる、「絵が動く」という原初的なアニメーションの気持ち良さも堪能できるだろう。

 さらに吹き替え版も文句なしのクオリティだ。主人公のマーサを演じるのはYoutuber・モデルとしても活躍中の福山あさき。声優としての経験はまだ浅い新人ではあるが、愛らしさがあると同時に、自分の信念を曲げない「芯の強さ」を感じさせるマーサに声質と演技がぴったりだった。その他にも新進気鋭の実力派の若手声優たちが見事な演技を見せており、上田燿司や杉田智和というベテラン声優も脇を固めている。

 そして、本作を観た方はレミ・シャイエ監督の前作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(19)もチェックしてみて欲しい。こちらは14歳のお嬢様が、行方不明になった大好きな祖父を探すため、北極を目指すという冒険アニメ映画で、過酷な旅路が描かれていること、何より女の子が自分らしい生き方を見つけに行く内容であることが共通していた。アニメとしての楽しさ、日本語吹き替え版のハイクオリティぶりも、もちろん同じだ。

 また、この『カラミティ』をきっかけに、カラミティ・ジェーンというその人をさらに知ってみてもいいだろう。彼女は女性ガンマンであると共に「平原の女王」とも呼ばれていて、優秀な軍の斥候でもあった。その人生の原初的な出来事を綴った『カラミティ』は、その「入門」としてもうってつけだ。実在の人物を知ることはそれだけで意義があるし、そして現実にフィードバックして「自分らしい」生き方を探せるきっかけにもなるだろう。1人でも、多くの人に観てほしいと心から願う。

アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放の画像5
C) 2020 Maybe Movies ,Nørlum ,2 Minutes ,France 3 Cinéma

2021年9月23日(祝・木)公開
タイトル:CALAMITY カラミティ
監督:Rémi Chayé レミ・シャイエ
原題:Calamity, une enfance de Martha Jane Cannary
英語題名:Calamity, a childhood of Martha Jane Cannary
C) 2020 Maybe Movies ,Nørlum ,2 Minutes ,France 3 Cinéma
2020 年|フランス・デンマーク|フランス語|日本語字幕|日本語吹替え|DCP|カラー|シネマスコープ|82 分

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2021/09/25 13:00
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