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アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放

文=ヒナタカ(映画ライター)

アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放の画像1
C) 2020 Maybe Movies ,Nørlum ,2 Minutes ,France 3 Cinéma

 2021年9月23日より、フランス・デンマーク合作のアニメ映画『カラミティ』が公開されている。

 本作は実在の女性ガンマンであるカラミティ・ジェーンの子ども時代を描いた作品だ。その波乱万丈の生涯は過去にも映画化されており、最近ではゲーム『Fate/Grand Order』のキャラクターとしても登場するなど、時代を超えて語り継がれる存在となっている。

 今回のアニメ映画は、子どもまで大人まで分け隔てなく楽しめるエンターテインメントであると共に、「女らしさ」「男らしさ」の価値観に囚われてしまう様を描き、それからの解放をもって「その人らしい生き方」を鼓舞する優しさに溢れた作品だった。さらなる具体的な魅力を記していこう。

「女の子であることの制約」に悩む物語

アニメ映画『カラミティ』が描く「女らしさ」「男らしさ」からの解放の画像2
C) 2020 Maybe Movies ,Nørlum ,2 Minutes ,France 3 Cinéma

 12歳の少女マーサは、家族とともに大規模な幌馬車隊で旅を続けていたが、父親が大ケガをしたため、家長として幼いきょうだいを守らなければならなくなる。経験がまだ浅いマーサは、「女の子であることの制約」にも悩むことになる。

 何しろ、マーサは女の子だから、というだけで望む仕事をさせてもらえない。馬の扱いを「教わればきっとできる!パパの代わりに!」と主張しても、隊長からは「バカなことを言うな!」と切り捨てられてしまう。しかし、マーサは夜に1人で長縄を投げる練習をしてみるみる上達し、そして苦労の末に乗馬も見事にこなし、満点の星空を見上げ、広大な大地も見つめる。彼女はこれからの「可能性」をまっすぐに見ていた。

 だが、そんなマーサの行動は、画一的な価値観に凝り固まった集団の中では理解をされない。動きやすいからズボンを履いている、ということだけでも「どうかしている」「女の子はスカートを履くものよ」「そんな格好をしたらママに殺されるわ」と周りの女の子たちから言われてしまう。マーサの父親もまた、娘が亡くなった母のことで侮辱されても「隊長の息子だ、言わせておくんだ。この幌馬車隊にいづらくなる」と理解を示さないばかりか、ズボンを履いた娘に「また睨まれるぞ!恥ずかしい!」と嫌悪感をあらわにする。

 しかも、この集団の中では女の子に「女らしさ」が強要されているだけでなく、男の子もまた「男らしさ」の価値観に囚われている。隊長の息子は、負傷したマーサの父の代理で馬の手綱を引いていると、仲間から「奥さんはマーサか?」などとからわれてしまう。それでも、彼はマーサに馬車の運転を教え、練習のため手綱を引かせてみたりもするのだが、今度は父親から「女の子に任せるとは」と言われてしまう。彼がマーサに侮辱の言葉を投げかけ、そして腕力で彼女をねじ伏せようとしてしまうのも、「男らしさ」が第一の価値観になっている、仲間の同調圧力によるものなのかもしれない、と思わされるのだ。

 こうした「女らしさ」「男らしさ」を(特に子どもに)強要してしまうことは、2021年の現在でも決して他人事ではないだろう。子どもたちの間で残酷なまでの同調圧力がはびこることはあるし、大人も経験による「そのほうが上手く生きられる」という思い込みのせいで、子どもの可能性を見てあげられないことは、十分にあり得るからだ。

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