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『家、ついて行ってイイですか?』亡くなる3日前の母が作ったカレーを…「今日はあなたが俺にインタビューしてくれてるから」

死期を自覚した母親が息子に作った“最後のカレー”

 深夜の渋谷駅でスタッフが声をかけたのは48歳の男性。「家、ついて行っていいですか?」と尋ねると、男性は「お願いします」と即答だった。

 彼は独身で、職業は回転寿司店の職人さんだそう。引っ越してまだ1カ月半という大塚のマンションへ向かう道中、スタッフは男性の近況を探った。

――最近、何かいいことはありましたか?
男性 「いや、ない。ちょっとショッキングなことがあって……」

 到着した男性の部屋は、11帖の1K。この間取りに似つかわしくないピアノがデンと置いてあるのが目についた。これは42年前に購入したものらしい。

「ピアノがすごい好きで。うちの母が趣味でやってた影響で」

 もう1つ、狭い部屋にはミスマッチなものが置いてある。仏壇だ。

「これ見て。令和2年6月(取材日は2020年10月)に亡くなってしまって。俺の悲しい出来事。お母さんね」

 よく見ると、部屋の中はお母さんにまつわるものでいっぱいだ。ピカチュウ好きの母のためにUFOキャッチャーでゲットしたピカチュウのぬいぐるみ。闘病中の母が折ったという大量の折り紙たち。ピアノも母の遺品である。きっと処分できなかったのだろう。

 冷凍庫を開けると、亡くなる3日前にお母さんが作ってくれたというカレーが保存してあった。“母の最後の料理”だ。

「なんとなくさあ、食べるに食べれない。これを見ると俺は泣けちゃうんだもん」
「引っ越しが落ち着いたらゆっくり食べようかなと思っていて、引っ越しが終わったら今度はもったいなくて食べれなくなっちゃって。早く食べなきゃ食べなきゃと思ったんだけどさ、食べれないよ本当にね」
「これ食べたら本当に終わりだなっていうさ、寂しさみたいのもあるから」

 と言いながら突然、男性はこのカレーを温め始めた。できあがったカレーを一口食べた男性は、「うまい!」。その瞬間、彼の表情が初めていい顔になった。食べ物で思い出が濃厚に蘇るのはよくあること。もう作ってもらえないカレーだ。だから、大事に食べてほしい。

「作ってくれたときのことを今でも鮮明に覚えてる。呼吸がまともにできない状況だったから心配だったけど、(亡くなる)1週間前にいっぱいご飯を作ってくれて。『疲れちゃうからご飯作らなくていいよ』って言ったんだけど『何が何でも作る』と意気込んで作ってくれたから。もしかしたら、自分で死期が近いのがわかったのかもしれない」

 男性はカレーを完食した。最後の一粒、一滴まで決して残さなかった。“最後のカレー”を食べるという、息子なりの弔い方。第三者から見ると腐ってないか心配になるけど、当事者にとっては何より大事なもの。こうして、人は前へ進んでいく。

男性 「どうもありがとうございます」
――え?
男性 「一人で食ったら寂しいけど、今日はあなたが俺にインタビューしてくれてるから。じゃないと俺、いつまで経ってもこれ食べれなかったから、よかった逆に」

 スタッフへのお礼につらかった本心が表れていて、胸が詰まった。誰かと話したい気持ちもあっただろう。これで、彼も心の整理がついたか。

『家つい』を人生の動機づけにする出演者は少なくない。何もなさそうな人に声をかけ、家について行けば何かがある。これが、この番組の醍醐味だと思う。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2021/09/29 19:00
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