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【澤田晃宏/外国人まかせ】技能実習生の「変形労働制」を認可――過酷でも稼げる牡蠣とホタテの養殖

――「奴隷労働」ともいわれる外国人労働者。だが、私たちはやりたくない仕事を外国人に押し付けているだけで、もはや日本経済にその労働力は欠かせない――。気鋭のジャーナリストが“人手不足”時代のいびつな“多文化共生”社会を描き出す。(月刊サイゾー」2021年10・11月号より転載)

【澤田晃宏/外国人まかせ】技能実習生の「変形労働制」を認可――過酷でも稼げる牡蠣とホタテの養殖の画像1
漁港には採苗連を作るためのホタテの貝殻の山がたくさんあった。牡蠣の幼生を付着さ せ稚貝として確保することを、養殖の行程では「採苗」という。(写真/筆者、以下同)

 広島県大竹市の玖波(くば)漁港にたどり着くと、漁港のあちらこちらで技能実習生たちが「採苗連(さいびょうれん)」を 作る作業に取り組んでいた。採苗連とは、中央に穴が開いた40枚程度のホタテの貝殻を、針金でプラスチック製の2センチ程度の管と交互に吊るしたもの。この採苗連を牡蠣(かき)の産卵期である夏頃に海中に沈め、ホタテの貝殻に牡蠣の幼生(赤ちゃん)を付着させるのだ。

 広島県は、牡蠣の生産量で日本一を誇る。その年間生産量は約1万9000トンと、全国の約6割を占める。天然が中心の魚とは違い、市場に出回る牡蠣(まがき)の大半は養殖だ。島や岬に囲まれた広島湾は波や潮の流れが穏やかで、牡蠣の生育や養殖棚の設置に適している。

 そうした環境から、今や広島県の名産品として全国的に知られる牡蠣だが、その生産現場を支えているのは外国人だ。

『広島発「技能実習生事件簿」』(文芸社)著者で、外国人労働者の研究、保護活動もする広島文教大学准教授の岩下康子さ んは「牡蠣養殖従事者の約8割は外国人が占めている」と指摘する。

「牡蠣養殖をする事業者の多くは家族や親族による小規模経営で、1990年代頃までは冬の収穫期の人手不足を近隣のパート労働者で補っていましたが、パート労働者の高齢化に加え、漁業に関心を持つ若者も少なくなり、都会に流れるようになってしまいました」  

 その労働力不足を当初補っていたのが、日本にルーツを持つフィリピンやブラジルの日系労働者だったが、それも長くは続かない。岩下さんが続ける。

「冬場の繁忙期と夏場の閑散期の収入差が大きく、夏場は月の手取りが1桁(万円)台になることもあります。そのため、収入が安定した製造業などに流れ、日系人が牡蠣養殖の現場に定着はしなかった」

 そこで、変わりに牡蠣養殖の現場に入ってきたのが、原則、職場移動の自由を持たない技能実習生だった。

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約40枚のホタテの貝殻をゴム管と交互に通す。フィリピン人技能実習生は「採苗連を1日8時間で110本くらい作ります」。

 牡蠣の生産・販売を行うアミスイ(大竹市玖波)では現在、9人のベトナム人と6人のフィリピン人が働く。代表取締 役の網谷博慶さんもこう話す。

「繁忙期に手伝ってもらっていた近隣のパートさんが高齢化し、若者は都会に出てしまい、もう20年前くらいから日本人は集まらなくなりました。当時はまだ技能実習制度はなく、中国人研修生の受け入れを始め、現在も技能実習生なしには事業が成り立たない状況です」

 年間を通じて作業はあるが、自然相手の商売であるため、どうしても時期により作業量に差が出る。牡蠣の出荷までの流れを、網谷さんがこう説明する。

 先述の採苗連を牡蠣の産卵期である7月から8月にかけて海中に沈め、浮遊する牡蠣の幼生を付着させる。幼生が付着した採苗連を干潟の「抑制棚」に1年ほど吊るす。潮の満ち引きで海水に浸からない時間をつくることで、環境の変化に負けない抵抗力をつけ、生命力のある丈夫な牡蠣をつくることができるという。

 抑制が終われば、採苗連から育成した牡蠣の付いたホタテの貝殻を外し、それをまた針金にプラスチック製の20センチ程度の管と交互に通し替え、垂下連(すいかれん)を作り、沖合の養殖筏(いかだ)に吊るす。ここから収穫までに約1年かかり、幼生の採取にさかのぼれば、収穫まで2年程度かかる。

 例年、水揚げが解禁される10月から翌5月くらいまでが繁忙期となる。収穫した牡蠣は洗浄し、泥や付着したムラサキガイなどの生物を取り除く。洗浄した牡蠣は1個ずつ貝柱を切り、むき身にする。「牡蠣打ち」と呼ばれる作業で、ここに多くの人手が必要になる。

「垂下連を養殖筏に吊るした後も、育成状態の悪い牡蠣を間引いたり、海水の表面温度が高い夏場は針金をつぎ足し、牡蠣を深く沈めたり、作業はたくさんある。収穫時はクレーンを使いますが、機械化できる部分は限られます」(網谷さん)

 筆者が訪れた9月は、水揚げが解禁される直前の閑散期。アミスイで働く実習生の労働時間は1日5時間程度。逆に繁忙期に入ると、朝の5時から夕方頃まで作業が続くこともあるという。

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