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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.660

男はなぜ“危険な女”に手が伸びてしまうのか? 万田邦敏監督が描く恋愛奇談『愛のまなざしを』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

己の恋愛道を貫く、万田作品の「恋愛極道」たち

男はなぜ“危険な女”に手が伸びてしまうのか? 万田邦敏監督が描く恋愛奇談『愛のまなざしを』の画像2
貴志の義弟・茂(斎藤工)の登場によって、物語はまるで読めない状況に

 それまで精神科に通う患者だった綾子だが、貴志の再婚相手という立場を手に入れ、病院のスタッフとして受付業務を行なうようになる。病院で長年働く池田(片桐はいり)が受付にはいるが、2人並んで来院者の対応をすることに。インディーズ映画界のミューズと呼ばれる杉野希妃と個性派女優の片桐はいりが受付に並んで座る、おかしなひとコマだ。患者が医者のふりをする古典的な「病院コント」を思わせるが、治療する側とされる側、欲情を燃やす側と燃やされる側の立場が逆転していくこの物語を象徴するようなシーンでもある。

 映画プロデューサーや監督としても活躍する杉野希妃は、本作では尋常ではないフェロモンを全身から放っている。『禁忌』(14)や『雪女』(16)のような濡れ場こそないが、これまで以上に杉野がエロティックに感じられる。そして、杉野が演じる綾子はとても欲張りな女だ。精神科医の貴志を手に入れただけでは満足できず、貴志の義理の弟・茂(斎藤工)にまで近づく。

 茂は、貴志の亡くなった妻・薫の弟で、姉が死んだ原因は貴志にあると考えている。貴志のことを憎む茂に「復讐したいんでしょ?」と言い寄る綾子だった。綾子と茂が男女の関係を結べば、貴志は過去の出来事ではなく目の前の現実に苦しむことになる。綾子はとことん恐ろしい女だ。

 綾子は平気で嘘をつくが、ずっと孤独だったというのは事実だ。家族から愛されず、学校にも友達はいなかった。だから、自分の経歴を偽って男に近づき、恋愛関係にあることに自分の居場所を見つけていた。恋人にかまってもらうために、さらに嘘を重ねる。そして相手の心を傷つけるだけでなく、綾子自身も血まみれになってしまう。それでも、愛する人から自分を忘れられてしまうことを綾子は極端に恐れている。

 立教大学時代に黒沢清監督と同じ自主映画制作サークルにいた万田監督が、万田珠実夫人との共同作業による脚本で恋愛映画を撮るのは、長編デビュー作『UNloved』(01)、『接吻』に続いて3作目となる。『UNloved』のヒロイン・光子(森口瑤子)は青年実業家(仲村トオル)から求婚されながらも、貧乏なフリーターと交際するようになる。『接吻』の京子(小池栄子)は弁護士(仲村トオル)の反対を振り切って、連続殺人犯(豊川悦司)と獄中結婚する。万田作品の仲村トオルは、いつも悲惨な目に遭う。

 一般社会の価値観を無視して、己の恋愛道を貫く女たち。たとえ、その道が修羅の道だと分かっていても。万田作品のヒロインたちのことを「恋愛極道」と呼びたい。恋愛極道とは実生活ではお近づきになりたくないが、スクリーンに映し出される彼女たちは格別な美しさを放っている。

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