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日本史愛とラップの関係

ラップと日本史の親和性  KOHEI JAPAN、かく語りき

日本史の知識が楽曲で花を咲かせる

――日本史の中でも特に好きなジャンルや分野というのはありますか?

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【5】『ペリリュー・沖縄戦記』(08年/講談社)

KOHEI ライフワークとして捉えているのは太平洋戦争。村多さんからもらった『ペリリュー・沖縄戦記』【5】っていうアメリカ兵が書いた文庫本があるんですけど、沖縄戦を海外の目線から書いている回顧録なんですよ。太平洋戦争で日本人はこんなことを行っていたのか? と、純粋に「すげえ」と思いました。別に右とか左の思想ではなく、たった70~80年前の出来事なのに、当時の日本人の行動に驚いて。それからずっと関心は高いです。

――興味をそそられる出版社やシリーズ作品などはありますか?

KOHEI 戦争にまつわる文庫をたくさん出している光人社NF文庫(潮書房光人新社)ってのがあって、そこから出版されてる本を読んでいくうちに、どんどん太平洋戦争の知識が……偏っていく(笑)。それから戦争文学なんかも読むようになって、『ペリリュー・沖縄戦記』はいまだに読み返してしまう。それくらい太平洋戦争っていうのは、自分の中ですごくデカい歴史のひとつ。

――太平洋戦争の本を掘り続ける理由は、それぞれ視点が違うからですか?
 
KOHEI そう。やっぱり軍人が書くと誇張されているというか。例えば、従軍慰安婦に関しても、一兵卒の本の中ではサラッと出てきたりして、そのほうがよりリアルに感じるんですよ。そうしたトピックをちょっとずつ知識として仕入れて、自分の中で「きっとこれはこう!」って考えを完成させていく。別に誰かと意見を戦わせて、「違う! その考えには反対!」とか言いたいんじゃなく、いろんな著者の視点から描かれる事実を読んで、自分の中で落ち着かせたい感じ。沖縄戦の本は読めば読むほどいろんなことを考えめぐらせてしまう。何が起きていたのか知れて、本当によかったと思います。

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【6】『破船』(82年/筑摩書房)

――太平洋戦争以外で、いま興味を持っている分野というのは?

KOHEI 江戸以降の東北の話と、吉村昭の作品。いま一番好きな作家です。彼は綿密な取材を重ねる作家で、かつ史実に忠実でありながら取り上げるトピックの一つひとつがすごく面白い。有名な作品だと『戦艦武蔵』(66年)や『漂流』(76年/共に新潮社)とかですかね。最近の楽しみのひとつが吉村作品をディグることなんですけど、中でも『破船』【6】は衝撃的でした。日本海に面した寒村の話なんだけど、米や荷物を運ぶ船を故意に座礁させ、その積荷を盗んで生計を立てる、っていう。小説なんだけど史実に基づく内容で、淡々とした文章も読みやすくて好き。でも、内容はマジで「ええっ!?」って感じ。

――そうして影響を受けてきた歴史の知識から、実際にラップとして曲になった作品というのはありますか?

KOHEI 得た知識を曲に落とし込むのは、ちょっとサムいかなと思ってたんで、実はほとんどやったことがないんですよ。でも、1曲だけベスト盤(『コーヘイジャパンはかく語りき』/14年)に収録した「天気晴朗ナレドモ波高シ」っていうRHYMESTERとやった曲があって。その曲で初めて意識的に歴史の知識と言葉を使ったと思う。サビでも歌っている「天気晴朗ナレドモ波高シ」って言葉は、日露戦争で秋山真之中将が日本海海戦を始める直前に打った電文の一文ね。「ヒノデハヤマガタトス」とか「小田原評定」「小山評定」とか、自分が持ち得る知識を総動員してヴァースを書いたと思います。

村多 当時、私が担当した歴史の企画もので〈カブキックス〉という音楽プロジェクトをやったんですが、そこではKOHEIさんにラップしてもらっているんです。

KOHEI プロデューサーがALI-KICKで、俺が前田慶次について淡々とラップする曲で、映像も有名な人に作ってもらったんだけど、まったくバズりませんでした。

――ほかにもヒップホップシーンでは歴史好きとして知られているKEN THE 390とDEJI、Kダブシャインが参加した「The SAGA Continues…」という曲もやられてましたよね。

村多 KOHEIさんの作品を担当した時代は音楽事業だったんですが、今は地方創生を掲げた地域活性化事業がメインなので、佐賀県からそのプロジェクトの話をいただいたときに声をかけたんです。佐賀県庁でライブも行い、歴史を題材にした有意義な仕事になりました。

――その題材となった佐賀藩主の鍋島直正とは、どのような人物なのですか?

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(写真/渡部幸和)

KOHEI もともと佐賀藩と長崎が近かったというのもあって、海外から新しい文化をどんどん取り入れるような人だったんですよ。海外から得た少ない知識で何か挑戦してみよう的な。その姿勢って、当時僕らが日本語でラップをしようとした感覚に近いんだろうなと。

――そういう意味では、「ディグる」という文化を踏まえ、日本史に登場する人物の思想や時代時代の考え方など、ヒップホップと日本史は親和性の高い部分が多いですよね。

KOHEI 入口としては幕末が一番面白いんじゃないかな。俺みたいに日本史を避けてた人間でもハマったくらいだから。たぶんね、幕末の空気感はヒップホップ好きに合ってるんだと思う。例えば、世の中を変えていこうとする動きや、藩における地方レペゼンとか、共通項も多い。ラッパーなら一度は文化のルーツを辿ると思うんだけど、それってどんどん掘り下げていくわけですから。兄貴もそうだけど、ヒップホップが好きな人は、自然と歴史を好きになっていくんだと思いますね。

(文/大前 至)

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2014年にリリースされたKOHEI JAPANのベストアルバム『コーヘイ・ジャパンはかく語りき』(ポニーキャニオン)。アートワークは言わずもがな、吉田松陰になりきるKOHEI JAPAN。

KOHEI JAPAN(こーへい・じゃぱん)

1971年、神奈川県生まれ。1991年よりラッパーとして活動を始め、93年にヒップホップグループ〈MELLOW YELLOW〉を結成。00年にはソロ活動に本腰を入れ、アルバム『The Adventure of KOHEI JAPAN』を発表。07年にはメジャーへと舞台を移し、K.J.名義も含めて計5枚のアルバムをリリースする。実兄はRHYMESTERのMummy-D。
Twitter〈@koheijapan_1

最終更新:2021/11/06 20:00
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