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歴史雑誌のディープな世界【2】

一番新しい歴史「平成史」本ガイド

 過去はいつから歴史になるのか――。令和3年の今、早くも「平成史」とタイトルに冠した本は何冊も生まれている。(「月刊サイゾー」2021年9月号より転載)

『平成史―昨日の世界のすべて』(與那覇潤/文藝春秋)

 ノンフィクション作家で評論家の保阪正康氏による『平成史』(平凡社新書)は、平成は小選挙区制の導入によって政治が劣化した時代であると共に、阪神・淡路大震災と東日本大震災という2つの震災とオウム事件により、人々の心理が極めて動揺した時代だと論じる。

 歴史社会学者・小熊英二氏編著による『平成史』(河出ブックス)は、財政社会学者の井手英策、教育社会学者の貴戸理恵、政治学者の菅原琢、政治社会学者の中澤秀雄、社会学者の仁平典宏、情報環境研究者の濱野智史、社会学者のハン・トンヒョンといった各氏が、それぞれ経済、教育、政治、社会保障、情報化、外国人といった各章を担当している。

『平成史』(小学館)は、作家の佐藤優氏と思想史研究者の片山杜秀氏の対談本。平成の31年をさらに数年ごとに分けて7章で論じ、大量の注釈や年表を並べるスタイルで流れを概観しやすい。

 同じ片山氏の『平成精神史 天皇・災害・ナショナリズム』(幻冬舎新書)は、平成の間に蔓延した精神的退廃のありようを、シン・ゴジラや村上春樹を取り上げつつ、AIの進化が日本人に与える影響にも言及しながら論じる。

 日本経済新聞編集委員の清水真人氏が書いた『平成デモクラシー史』(ちくま新書)は、政治改革や政党の合従連衡に踊らされた平成政治の変遷を振り返りながら、「平成デモクラシー」とは何だったのかを論じる。

『報道ステーション』のコメンテーターだった政治ジャーナリスト後藤謙次氏の『10代に語る平成史』(岩波ジュニア新書)は、平成生まれの中高生に向けて書かれたことで、昭和生まれにとってもわかりやすい本になっている。

 そして、つい先日発売されたのが、『歴史雑誌のディープな世界【1】』にも登場してもらった與那覇潤氏の『平成史―昨日の世界のすべて』(文藝春秋)である。ふたつの震災を経ることで31年の間にどんどん不透明さを増していった平成の日本社会を、エヴァンゲリオンなどの誰もが知るサブカルチャーも深掘りしつつ解析する。本書を自身の歴史学の最後の著作だと宣言する與那覇氏に、平成史とは何だったのかを聞いてみた。

「私の場合、平成史をまとめる上で『子どもと大人』のメタファーをモチーフに選びました。昭和の時代にはまだ強かった各種のタブーがなくなり、子どもみたいになんでも自由でいいんだ、というムードが広がったのが平成の最初の10年間。ところが不況の本格化などによってそれは頓挫し、真ん中の10年間にはさまざまな『大人になるため』の試みが繰りかえされる。しかしリベラル寄りの政権交代、ネトウヨ的な愛国主義の鼓吹、インターネットへの期待などさまざまに試した挙げ句、どれもダメだという悲観論が蔓延したのが最後の10年間という見取り図ですね。ただし大事なのは、決して日本だけが行き詰まり、苦しんでいたわけじゃない。まだ昭和だった1970年代から、世界のどこでも近代社会の限界が自覚されるようになり、これまでとは違う新しい『成熟』の形が求められていた。そうした狭義の平成史よりも広い・長いスケールを設定しているのが、この本の個性かなと思います」

 そして、令和の始まりとともに発生し、いまなお収束の兆しが見えない新型コロナウイルス。現在進行形の令和は、果たして歴史的にはどのような時代になるのだろうか?

「令和史もいずれは誰かが書くのでしょうが、そこに昭和史や平成史のようなまとまりは生まれない気がします。平成史なら『戦後の行き詰まりの打開を試みた時代』として一本の筋を作ることができますが、令和の場合、もはや何に行き詰まっているのかが判然としない。たまたま五輪とコロナが重なって目下、大混乱を極めているように、目の前に起こったことに対応するだけで精いっぱいで、アクシデントの連鎖しかなく一貫性のない時代が令和になるのでは」

 果たして、半世紀後の日本史年表は、どのようなものになっているのだろうか? 本誌読者の何割かは、それを見ることができるだろう。

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2021/11/08 07:00
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