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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

『ドーナツキング』――「国策」が育てたドーナツとカニとカクテルとポテチ

テッド・ノイはリアルゴッドファーザー!?

『ドーナツキング』――「国策」が育てたドーナツとカニとカクテルとポテチの画像3
© 2020- TDK Documentary, LLC. All Rights Reserved.

 閑話休題。アメリカでドーナツ店を繁盛させたテッド・ノイだが、その後アメリカはカンボジア内戦やクメール・ルージュ率いるポル・ポトの独裁で大量に発生した難民を、これまた国策として受け入れる。テッドはこうしてカンボジアから続々とやって来た同胞たちにビジネスを手ほどきし、一大チェーンを築きあげてアメリカンドリームを手にした。

 どこかで聞いたことのある話だ。そう、『ゴッドファーザー』である。

 やむにやまれぬ事情によってシチリアを追われた少年ヴィトーが単身アメリカに渡り、そこで小さなオリーブオイル輸入事業会社を開業。やがて地域の顔となり、同胞のイタリア系をまとめあげてマフィアの一大勢力に成り上がる。『ゴッドファーザー PART II』で描かれたドン・コルレオーネの生い立ちだ。

 『ゴッドファーザー』三部作には、コルレオーネ一家の栄光だけでなく力を失いつつある過程まで描かれているが、実は『ドーナツキング』のテッド・ノイも同様の過程を綺麗になぞっている。

 なお『ゴッドファーザー』1作目の最初のセリフは、イタリア系の葬儀屋が発した「アメリカはいい国です」だ。原語では「I believe in America(アメリカという国を信じています)」だが、ここには移民にもチャンスがある素晴らしい国であるというニュアンスが含まれている。少なくとも、1作目の舞台だった1945年当時においては。

 翻って日本。いつか我が国が難民や移民を大量受け入れし、「I believe in Japan」と言われる日は来るのだろうか。ちなみに『ゴッドファーザー PartⅢ』のラストではヴィトーの息子マイケルが老いさらばえて孤独に生涯を終えるが、『ドーナツキング』では存命のテッド・ノイ翁が満面の笑みでドーナツを頬張っている。実に味わい深い対比。日本の行く末はどちらだろう?

 

『ドーナツキング』
11月12日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© 2020- TDK Documentary, LLC. All Rights Reserved.

 

 

稲田豊史(編集者・ライター)

編集者/ライター。キネマ旬報社を経てフリー。『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が大ヒット。他の著書に『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)などがある。

いなだとよし

最終更新:2021/11/13 06:00
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