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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.666

異郷での生活はこの世の楽園か地獄の入り口か? “困窮邦人“を追った『なれのはて』

犯罪が多発する一方、助け合いの精神が息づく貧困街

異郷での生活はこの世の楽園か地獄の入り口か? “困窮邦人“を追った『なれのはて』の画像3
谷口俊比古さんは元暴力団員。日本である事件を起こし、逃亡してきた

 粂田監督がスラム街で出会った日本人たちは、普段はタガログ語しか使えないことから、日本語で話せることが久々なこともあり、すごくオープンに喋ってくれたそうだ。一緒に食事をする際には粂田監督が食事代を払うなどはしたそうだが、取材費を要求されることはなかったという。自分たち「困窮邦人」の実情を、今の日本へ伝えたいという気持ちがあったのではないだろうか。

粂田監督「最初に会った嶋村さんは、自分の存在を残したいと話していました。嶋村さんは生活のすべてを撮影させてくれました。その嶋村さんは取材を始めて2年ほどで亡くなってしまったんです。嶋村さんの遺体はどこに埋められたのか、今も分かっていません。当初は『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)向けのテレビ番組にすることを想定していましたが、取材を進めていくうちに、制約の少ない劇場作品にすることにしたんです。嶋村さんが亡くなったことが、その後も取材を続け、作品に仕上げようというモチベーションにもなりました」

 困窮邦人たちが暮らすスラム街は猥雑だが、同時にエネルギッシュさも溢れている。ブリランテ・メンドーサ監督の劇映画『ローサは密告された』(16)で警察組織が腐敗しきっていることが描かれていたように、警察も行政もフィリピンでは頼りにならない。犯罪が多発する街ではあるものの、そこで暮らす人たちは支え合って生きているという一面がある。

粂田監督「嶋村さんの部屋に近所の子どもたちがガヤガヤと入ってくるシーンは、かわいいなと思ってカメラを回したんですが、子どもたちが帰った後には嶋村さんの携帯電話が失くなっていました。嶋村さんは慣れているらしく、失くなった携帯電話は諦めていました(苦笑)。スラム街では少しでも目を離すと、財布などの貴重品はすぐに盗まれてしまいます。警察に届けても、戻ってくることはありません。でも、その反面、困っている人には優しい街でもある。フィリピンにキリスト教文化が根付いていることや、スペインや米国に植民地支配された歴史が長いことから、フィリピンの貧困層はお互いに助け合うことが生きていくための知恵になっているように感じますね」

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