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「地下芸人の帝国」が興隆した2021年――そして揺るがぬ東京西部の地底

 2021年、お笑い界で大きな地殻変動が起きた。マヂカルラブリーの「M-1グランプリ」優勝以降、「地下芸人」という存在が脚光を浴び、今やその名称は世に知れ渡っている。だがしかし、結局のところ「地下芸人」とは何なのか? どこから先が「地下」なのか? 20年以上にわたってお笑いライブに通うライター・鈴木工氏が“地下論”を考える。

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配信チケット1万7000枚を売り上げた「マヂカルラブリーno寄席」は2022年元日に再び開催予定(画像は「FANY Onlineチケット」HPより)

 2021年は「地下芸人」が誕生した年だった。

 別にビッグバンが起こり、地下芸人という生物がいきなり生命を得たわけではない。これまで存在はしたものの、地上に現れることはなかった地下芸人が一気に世間へと表出したのだ。

 地下芸人とは何か。明確に定義づけされているわけではないが、もっとも基本的な条件が「テレビを中心とするマスメディアに姿を現さない」だろう。さらに「事務所に所属していない。入っていても仕事が少なく恩恵を受けていない」「おもな活動拠点が小さな劇場(大体、最寄駅から離れていて椅子が硬い)のお笑いライブ(主催者がエントリーフィーを要求しがち)」「ウケなくても、かたくなに自分の芸をチューニングしない」「舞台で何をやっているかよく分からない」などの要素を多かれ少なかれ保有していると言える。

 振り返って00年代。やはり駅から離れて椅子の硬い劇場に私は足を運び、暗い熱気に支えられたお笑いライブをよく見ていた。ハリウッドザコシショウとバイきんぐの合同ライブ『やんべえ』、永野が定期的に開催していた単独『目立ちたがり屋が東京でライブ』、チャンス大城が活躍していた大川興業主催の『すっとこどっこい』……。当時、客席で肩を細めながら、地下ライブの中に身を置いた気になっていたが、今思えばそこまで深い地下ではなかった。重くて太い笑いをかっさらう前出の芸人たちは、あと少し階段を上がって踊り場を曲がれば、メジャーの光線が差し込むところにいたのである。そこは芸人が修練を積む半地下の道場だった。

 そして2010年代。地下ライブは世間の目の届かないところでネットワークを広げ、メイプル超合金やアルコ&ピースといった新星を輩出するようになる。さらには地下の太陽神的存在だった永野やチャンス大城までもが、地上で目が眩む脚光を浴びる変事も起きた。

 しかしながら、地上と地下を往来できる太いルートが開通したわけではない。地下からは人一人通るのがやっとの坑道がかろうじて伸び、数年に一度、そこを這い上がってくる猛者がいただけのことだ。私は最初彼らのことを、1日外出券を手にして地上に現れ、すぐに戻っていく『カイジ』の地下労働者のように眺めていた。しかし、その見立ては誤りで、這い上がってきた者たちは大手事務所に身を滑り込ませては、しっかり地上でポジションを獲得していった。それは地上と地下の格差が固定化した『カイジ』というより、地下住民が地上の生活を謳歌する『1日外出録ハンチョウ』の世界観だった。

 さらに2020年の年末、『M-1グランプリ』で優勝したマヂカルラブリーが、自分たちの出自はよしもとではなく地下芸人界であると公言。年が明けると、盟友を集めた『マヂカルラブリーno寄席』配信が大当たりし、出演していたモダンタイムス、ランジャタイ、脳みそ夫らを総称する「地下芸人」の名称が一気に広まった。突然、地下芸人の帝国が隆起し、か細い坑道はぶっとい公道へと拡張したのである。

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