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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

映画『牛久』は外国人「収容」の実態を暴き、ダブルスタンダードな日本を追い込む

映画『牛久』は外国人「収容」の実態を一方的に暴き、政府のダブスタを追い込むの画像1
©Thomas Ash 2021

 2021年3月、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入国管理局の施設で「病死」した。ウィシュマさんは日本の子どもたちに英語を教える目的で来日したが、在留資格を失って2020年8月から同施設に収容。やがて体調が悪化するが、入管職員による酷い扱いや不適切発言などが明らかとなり、「病死」との関連性が疑われている。

 このような収容施設は国内に17カ所ある。そのうちのひとつ、茨城県牛久(うしく)市にある「東日本入国管理センター」の収容者たち9人をアメリカ人監督トーマス・アッシュが訪ね、本来撮影が禁止されている面会室で“隠し撮り”したドキュメンタリーが『牛久』だ。なお、収容者たち自身は撮影・公開されることを了解している。

 そもそも「収容」とは何か。日本に来た外国籍の人が何らかの事情で在留資格を失うと、退去強制令書を受ける。しかし、本国が内戦状態で身の危険がある、帰国すれば迫害や差別を受ける、などの理由で本人が送還を拒んだ場合、“不法滞在者”として施設に入れられ、身柄を拘束されて自由を奪われる。それが「収容」だ。

 収容の判断には司法の介在がない。それゆえ長期にわたって収容されっぱなしになる。牛久では、撮影時点でその半数以上が4~5年も収容されている――と、収容者の口から語られていた。

「難民を受け入れる」と言って受け入れない日本

 本作は、日本の入国管理行政の問題を大きく3つ、浮き彫りにする。

 ひとつは、収容者たちの扱いだ。ウィシュマさんがそうだったように、長期の収容によって心や体を病む人も多い。しかし入管は「所詮、在留資格がない外国人なのだから」と、人間的な扱いをしていない(と収容者たちは口々に訴える)。「まるで刑務所」と語る収容者もいる。

 「仮放免」にも問題がある。仮放免とは一時的に収容所から出られる制度だが、都道府県を越えて移動するには許可が必要であるばかりか、仮放免中は職に就くことができず収入を得られない。生活保護も受けられず、健康保険も適用されない。収容所を出たところで生活ができないのだ。

 こういう話をすると、「それが嫌なら日本に来なければいい」という反論が必ず出てくる。しかし、ここで3つ目の問題が浮上する。日本は国際的に「難民を受け入れる」というスタンスを取り、世界中にその人道性をアピールしているにもかかわらず、実際はほとんど難民を受け入れていないのだ。2010年から19年の難民申請のうち認定されたのはたった0.4%。「難民扱いされると思って日本に行ったら不法滞在者扱いされた」というわけだ。

 国として難民を受け入れたくない、あるいは受け入れる社会基盤がないのなら、「日本は難民を受け入れません」とはっきり宣言すればいい。なのにそうは言わないで、国際社会に「いい格好」している。そういう日本政府の欺瞞に、ダブルスタンダードに、収容者たちは怒っている。

 ある収容者は言う。

「日本は基本的に難民を受け入れていない、とはっきり言われた。申請書を配っているだけ」

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