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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい」

『由宇子の天秤』に想う「ドキュメンタリーは嘘をつく」

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

『由宇子の天秤』に想う「ドキュメンタリーは嘘をつく」の画像1
©️2020 映画工房春組 合同会社

 社会正義を訴えるタイプのドキュメンタリーは、同情と正義の傍観者による「鉄槌下し欲」の発生システムを巧みに“利用”して作られている。

 虐げられた社会的弱者の言葉は、映像にドーピング並みの説得力を与えるからだ。切々と被害を訴える彼らの画(え)と言葉は強い。視聴者を思考停止させるほどに強い。だからこそドキュメンタリーの制作者は、その強い画と言葉を採取すべく、片っぱしから弱者にマイクを向ける。

 『由宇子の天秤』の主人公・木下由宇子(瀧内公美)は、その「社会正義を訴えるタイプのドキュメンタリー」を作るディレクターだ。追っている題材は3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件。発生当時、学校はいじめの存在を否定。マスコミの加熱報道により女子高生と交際疑惑のあった男性教師までもが自殺してしまい、彼の遺族はいまだに世間から隠れるようにして生きていた。由宇子は完成したVTRに「こうなった責任の一旦はマスコミにある」ことを匂わせるが、局の上層部はそれをよしとしない。これが物語の導入部だ。

 本作で“虐げられた社会的弱者”にあたるのは、自殺した女子高生、自殺した男性教師、それぞれの遺族、そして由宇子が教鞭をとる学習塾に通う少女だ。由宇子は一貫して彼ら・彼女らに寄り添おうとする。自らの尊い正義を貫徹するために。

 ここで、『A』『FAKE』などで知られるドキュメンタリー監督・森達也の言葉を引こう。森は言った。「撮られる側は演じる。つまり嘘をつく。自覚的な嘘の場合もあれば、無自覚な場合もある」

 筆者(稲田)にも心当たりがある。

 バツイチ男性に匿名で離婚の顛末を聞く取材を3年以上続けているが、ある男性に「心を病んだ妻から恐ろしいモラハラと暴力を受けた」と話してもらったことがある。しかし彼は、その妻からある嫌疑によって離婚訴訟を起こされていた。嫌疑とは「彼が妻にモラハラと暴力はたらいた」というもの。

 夫と妻のどちらもが被害者を自称し、どちらかが嘘をついている? だとすれば、なぜ嘘をつく必要があったのか?

 一連の取材ではこんな発見もあった。妻の心が「こわれた」せいで生活が荒れ離婚した男性の多くは、離婚の顛末を「ネタ度の高い被害報告」としてエピソードトーク的に話しがちなのだ。小咄(こばなし)として完成されすぎている。「すべらない話」感が半端ない。

 理由はわかっている。彼らはとにかく肯定してほしい。同情してほしいのだ。

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