日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?

3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?に向き合う『永遠の1分。』

日本人シンガーの視点から思い知らされる「音楽の力」

3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?に向き合う『永遠の1分。』の画像2
C)「永遠の1分。」製作委員会

 この映画『永遠の1分。』でもう1つ重要なのは、震災で息子を亡くした心の傷を抱えたまま、ロサンゼルスに移り住んだ日本人シンガーの視点も描かれていることだ。その「運命」が、全く関わりのないようにも思えた日本の東北地方での映画制作の物語と、どのように交錯していくのかは……ぜひ映画本編を観て確認してほしい。

 その視点からは「音楽の力」も思い知らされる。というのも、その日本人シンガーおよび主題歌を、ヒップホップ・シーンでカリスマ的な存在感を誇るラッパーのAwich(YENTOWN)が務めているからだ。その圧倒的な歌声はもちろん、歌詞からもダイレクトに作品に込めたメッセージを受け取ることができるだろう。

コロナ禍も反映された脚本に

3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?に向き合う『永遠の1分。』の画像3
C)「永遠の1分。」製作委員会
3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?に向き合う『永遠の1分。』の画像4
C)「永遠の1分。」製作委員会

 本作は3.11だけでなく、新型コロナウイルスの蔓延も作劇に反映されている。上田慎一郎は「この映画は今も続くコロナ禍の中で生きる人々の力になる」と確信し、コロナ禍も踏まえた脚本は第14稿にまで達したそうだ。

 『永遠の1分。』の映画制作そのものも、コロナ禍により一旦の中断を余儀なくされたものの、曽根剛監督もまた「作品は日本の大震災だけではなく、あらゆる困難に立ち向かう人間の姿であり、それは世界共通のもの」という信念で、作品を再構成していったという。

 3.11の深い傷は10年以上が経った今もなお強く残り、2年以上も続いているコロナ禍もなおも人々を苦しめ、今はロシアによるウクライナ侵攻という人為的な悲劇も起こっている。そのようにひどい出来事が起こる現実の世界において、映画をはじめとしたエンターテインメントは何ができるのだろうか……? 『永遠の1分。』は、そのタイトルに込めた意味も踏まえながら、難しくもあるが、不謹慎でもない、その誠実な答えの1つを、ラストに提示してくれていた。

『100日間生きたワニ』のネットいじめのカウンター?

3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?に向き合う『永遠の1分。』の画像5
C)「永遠の1分。」製作委員会

 おそらくは作り手が意図していないことではあるだろうが、本作は上田慎一郎と、その妻であるふくだみゆきと共に監督・脚本を務めたアニメ映画『100日間生きたワニ』(20)に巻き起こった、ネットいじめに対するカウンターのようにも、個人的には思えた。

 というのも、『100日間生きたワニ』は公開前からレビューサイトでの荒らし行為や、限りなく犯罪に近い予約システムで遊ぶ迷惑行為までもが横行していた。原作となるTwitter発のマンガが無節操なプロモーション展開をしたために大炎上ししたことが、作品を観た上での真っ当な賛否両論の意見とは関係のない、大勢の悪意につながってしまっていたのだ。

 この『永遠の1分。』の劇中でも、制作中の映画は内容を観られないままに、表面的な要素から揚げ足取りをされ、理不尽なバッシングを受けてしまうというシーンがある。それでもなお、作品を届けようとする作り手の想い、作品を純粋に楽しむ受け手の気持ちも描かれているため、『100日間生きたワニ』で現実に巻き起こった出来事を想起させたのだ。

 また、『永遠の1分。』と『100日間生きたワニ』は、どちらもコロナ禍を経ての脚本の書き直しが行われていたこと、「(大切な人の死を経験した)残された人々」の話であることも共通している。合わせて観れば、理不尽な悲劇が巻き起こる世界であっても、人々が幸福にポジティブに生きていってほしいと願う、上田慎一郎の優しさがより伝わるだろう。

 あえて『永遠の1分。』に苦言を呈するのであれば、劇中で作られる映画が、いかにも上田慎一郎らしいコメディ然とした作風と絵面で、その一部だけが切り取られることもあって面白くないように見えてしまうことだろうか。メインビジュアルにある「巨大なおにぎり」といういかにもなギャグのイメージも、あまり作品と噛み合っていないように思える。そんな不満も残るものの、「今の世に必要な映画」を模索する作品のアプローチそのものに大きな感動がある作品に仕上がっているので、1人で多くの人に観てほしいと心から願う。

3.11のコメディ映画は不謹慎か否か?に向き合う『永遠の1分。』の画像6
C)「永遠の1分。」製作委員会

『永遠の1分。』2022年3月4日公開

出演:マイケル・キダ、Awich、毎熊克哉、片山萌美、ライアン・ドリース、ルナ、中村優一、アレキサンダー・ハンター、西尾舞生、渡辺裕之
監督:曽根剛
脚本:上田慎一郎 
音楽:鈴木伸宏、伊藤翔磨
主題歌:Awich「One Day」 (ユニバーサル ミュージック)
制作プロダクション:源田企画
配給:イオンエンターテイメント
助成:文化庁「ARTS for the future!」
特別協力:久慈市 協力:宮古市、陸前高田市、野田村、岩泉町、釜石市、大船渡市、気仙沼市、石巻市、南三陸町、女川町、東松島市、松島町、いわき市
2022年/日本/97分/カラー/シネスコ/5.1ch/
C)「永遠の1分。」製作委員会

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2022/03/04 15:46
12
ページ上部へ戻る

配給映画

トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • twitter
  • feed
特集

【4月開始の春ドラマ】放送日、視聴率・裏事情・忖度なしレビュー!

月9、日曜劇場、木曜劇場…スタート日一覧、最新情報公開中!
写真
インタビュー

『マツコの知らない世界』出演裏話

1月23日放送の『マツコの知らない世界』(T...…
写真
人気連載

山崎製パンで特大スキャンダル

今週の注目記事・1「『売上1兆円超』『山崎製パ...…
写真
イチオシ記事

バナナマン・設楽が語った「売れ方」の話

 ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶというお笑い界きっての毒舌芸人2人によるトーク番組『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日...…
写真