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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

知性があってもたいした仕事に就けない『パリ13区』の若者と、近くて遠い日本の若者

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

食べログの口コミ数「ゼロ」の不安

知性があってもたいした仕事に就けない『パリ13区』の若者と、近くて遠い日本の若者の画像3
©︎ShannaBesson ©PAGE 114 – France 2 Cinéma

 さらに、高原化した社会では若者が未来の目標を見失いやすい。

 成長期の社会では経済的成長こそが唯一無二の絶対善なので、誰もが見ているゴールは同じ――たくさん働いて国も個人も豊かになろう――だった。それゆえ皆で一斉に同じゴールに向かって走ってさえいれば、つまり定量的な目標に向かって努力していれば、必ず何かが達成できた。

 しかし高原化した社会では、誰もが納得する単一かつ明確なゴールは設定されない。国家単位のわかりやすい目標が雲散し、個々人がそれぞれ異なる幸せをオーダーメイドで模索することになるからだ。ひとりひとりが、自分にしか適用されない個人的なゴールを設定するのである。

 これを「多様性」と呼ぶのはいかにも聞こえがいい。しかし同時に不安も生みやすい。個人的なゴールの設定は完全に手探りだし、その独自に設定したゴールが「正しい」かどうかも確信が持てないからだ。

 1万人が「美味しくてコスパがいい」と口コミに書き込んでいる食べログ4.2の店には安心して行けるが、口コミ数ゼロの店に行くのは勇気がいる。それが僻地の店であれば、なおさらだ。電車とバスを8時間乗り継いでその店に行ったところで、もし不味かったらどうしよう? だったら、そんな賭けなどしないほうがいい。近所の日高屋でいつものチゲ味噌ラーメンを食べたほうが確実。これぞ小確幸というやつだ。

コミュニケーションとしてのセックス

知性があってもたいした仕事に就けない『パリ13区』の若者と、近くて遠い日本の若者の画像4
©︎ShannaBesson ©PAGE 114 – France 2 Cinéma

 皆が同じ方向を見ていない、同じゴールを目指していないゆえに、自分の価値を客観的かつ普遍的に測ってくれる絶対的な物差しが存在しない。知性や教養が絶対的な武器とはならない。高原化した社会は、そうなりがちだ。そうして人々の価値観が多様を極めれば、社会に不満があっても一枚岩で連帯することは難しい(というか、取りまとめがかったるい)。今は1968年でも1989年でもないのだ。

 『パリ13区』では、そんな高原化した社会での小確幸を、「ちょっといいなと思う人とのカジュアルなセックス」に設定している。セックスであれば、少なくともふたりのあいだでゴールは一致しているし、ゼロ距離で触れ合っているゆえに第三者の横槍やノイズも入らない。多様性のカオスには悩まされない。不特定多数がそれぞれ別の方向を向いているという不安の入り込む余地もない。なにかにつけてシンプルなのだ。

 本作においてセックスは、濡れ場というより1対1のコミュニケーションとして描かれる。エロスではなく安心を担保する営為として描かれている。とてもカジュアルで、日常的で、ことさら大事(おおごと)としては扱われない。

 先日逝去した社会学者・見田宗介の『現代社会はどこに向かうか ――高原の見晴らしを切り開くこと』(岩波新書)には、各国の若者たちを対象に81年から行われている「世界価値観調査」のデータを引いた分析がある。それによれば、「多くの高原期諸国において共通して大きく増大している価値が『寛容と他者の尊重』であった」(同書より)。トゲトゲした競争よりまったりした友愛を選ぶのが、高原化した社会を構成する若人たちの流儀なのだ。

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