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稲田豊史の「さよならシネマ 〜この映画のココだけ言いたい〜」

知性があってもたいした仕事に就けない『パリ13区』の若者と、近くて遠い日本の若者

文=稲田豊史(いなだ・とよし)

知性があってもたいした仕事に就けない『パリ13区』の若者と、近くて遠い日本の若者の画像1
©︎ShannaBesson ©PAGE 114 – France 2 Cinéma

『ディーパンの戦い』(15)でカンヌ国際映画祭・パルムドールを受賞した御年69歳のジャック・オディアールが、パリに住むミレニアル世代(2022年時点でおおむね20代中盤~30代後半)の男女4人が織りなす人間模様を描く本作。ほぼ全編モノクロのフランス映画だ。邦題の「パリ13区」とはセーヌ川の南岸に位置する区で、「1970年代の都市再開発により生まれた高層マンションやビルが連なり、アジア系移民が多く暮らすことでも知られる」(プレスシートより)地域である。

 男女4人のうち、カムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)のアンバー・スウィート(ジェニー・ベス)は物語上の立ち位置がやや異なるので除外するとして、残りの3人には共通点がある。知性や教養があるのに大した仕事に就けていない、ということだ。

 台湾系フランス人女性のエミリー(ルーシー・チャン)は、高学歴にもかかわらずコールセンター勤務、それもクビになって中華レストランのホールスタッフになる。アフリカ系フランス人男性の高校教師カミーユ(マキタ・サンバ)は1級教員資格を取るために休職し、特に思い入れもない不動産屋で働くことになる。32歳の女性ノラ(ノエミ・メルラン)は名門ソルボンヌ大学の法学生として復学したものの、ある事件によって大学を辞めざるをえなくなり、カミーユのいる不動産屋に就職する。

 3人ともちゃんとした知性や教養のある人間として描かれている。しかし、だからといって、良い就職先にありつけるとは限らない。カミーユは高校の教え子たちについて、「生徒たちの将来は内装業者かケバブ売り」だと諦め口調で言う。

 ただ、3人がこの状況にとりわけ絶望しているようには見えない。そもそも「すごく上」を望んでいない。わかりやすいキャリア志向や成り上がり欲のようなものはなさそうだ。これは、日本も含む先進国のミレニアル世代にうっすら共通する気質のように思える。

高原化した社会で求められる村上春樹の「小確幸」

知性があってもたいした仕事に就けない『パリ13区』の若者と、近くて遠い日本の若者の画像2
©︎ShannaBesson ©PAGE 114 – France 2 Cinéma

 国には「高原期」という段階がある。十分に経済成長を遂げた後に成長が停滞したフェイズのことだ。本作の舞台であるフランスは、GDPの年間増加率が一段落した90年代以降、高原期に入った。北ヨーロッパ・西ヨーロッパ諸国、アメリカ、そして日本も同様。これらは成熟国家とも呼ばれる。

 一方、経済成長まっただなかの国の場合、「働けば働いただけ稼げる、頑張れば頑張っただけ報われる」ため、頑張った後の人生を「勝ち組」として悠々自適に過ごせるよう、若いうちから誰もが努力する。がむしゃらな努力が推奨される。かつての日本の高度経済成長期で言うなら「モーレツ社員」というやつだ。

 しかし、これ以上目覚ましい経済成長が見込めない高原化した国では、どれだけ努力しても収入や生活水準はさほど上がらない。上がらないわけではないが、成長期に比べれば投じた努力に対するリターンが少ない。コスパが悪い。「ちょっと頑張っただけ」じゃ、たいして何も変わらないのだ。

 それゆえ、若者たちは「のんびりした現状維持」を求めるようになる。生活のなかにささやかな楽しみさえあれば、それで満足。日々ちゃんとご飯を食べられてさえいれば、多くは望まない。小さいけれども確実な幸せ。かつて村上春樹がエッセイで記したところの「小確幸(しょうかっこう)」というやつだ。

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