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『関ジャム』待望のaiko特集! 名曲「カブトムシ」で起きた“奇跡”

ポップな「キラキラ」、歌詞の「シルバーリング」の意味

 長屋が取り上げたのは、2005年リリースのシングル「キラキラ」。2005年放送のドラマ『がんばっていきまっしょい』(フジテレビ系)主題歌で、同作には元関ジャニ∞の錦戸亮も出演していた。それはさておき、同曲にはこんな歌詞がある。

「羽が生えたことも 深爪した事も シルバーリングが黒くなった事
帰ってきたら話すね
その前にこの世がなくなっちゃってたら 風になってでもあなたを待ってる
そうやって悲しい日を越えてきた」

 長屋が注目したのは、「シルバーリング」の箇所だ。

「待ち続けてる曲なんですけど、時間の経過をシルバーリングの黒ずみで表現するんです」(長屋)

 しかし、ただの恋愛ソングにしては理解しきれない箇所もある。「羽が生えた」とはどういうことなのか? しかも、序盤にはこんな歌詞も登場した。

「遠い遠い見たことのない 知らない街に行ったとしても
 あたしはこうしてずっとここを離れずにいるよ」

“遠い知らない街”に行ったのに「ここを離れずにいる」のは、文脈としてやはりよくわからない。この曲のラストは以下の歌詞で締めくくられた。

「その前にこの世がなくなっちゃってたら 風になってでもあなたを待ってる
 そうやって悲しい日を迎えてきた」

 つまり、こう読み取れた。「あたし」は羽が生えて“遠い知らない街”であるあの世へ行き、「あたし」にとってのこの世がなくなっても、あなたを待ち続ける。実体がなくなり、風になっても、シルバーリングが黒くなるくらい何年も待ち続ける……そんな怖い内容にも解釈できたのだ。悲しい内容の歌詞を明るくポップな曲調に乗せて歌うのが、またaikoらしいと思う。

 歌詞でいえば、2021年3月リリース「いつもいる」も興味深い。Official髭男dismの藤原聡は、同曲についてこんなコメントを寄せた。

「『あなたの隣で笑ってる それが生活 ずっと一緒にいるということ』という歌詞が出てきて、大切な人と過ごす日常の愛おしさが溢れています」(藤原)

 片想いや失恋を題材にすることがaikoは多かったはずだ。彼女にしてはめずらしいほどド直球のラブソング。そして同年12月、aikoは一般男性と2020年に結婚していたことを発表した。曲を通じ、ファンに向けて密かに“匂わせ”てくれていたのだ。

aikoの曲で起こる“奇跡”は偶然か?

 本音を言うと、aikoを語る際はあまり歌詞にフォーカスしたくない。語るべきはメロディーだから。

 長屋が取り上げたのは名曲「ボーイフレンド」。特に、終盤における「好きよボーイフレンド」の箇所だ。

「『すき~よ~、あ~』の後、『ボーイーフレェェェェエ~エ~ン』ですよ。『フレンド』ってパッと言えちゃう言葉です。『フレンド』だけで1音あてていい言葉なのに、『フレンド』の中の『エ』だけで『ェェェェエ~エ~』ってやるんですよ。何それ!? と思って」(長屋)

 ここ、本当に不思議なメロディーラインだと思う。なぜ、こんなにも半音を上げ下げするのか? この半音のおかげで、一般人からすると「ボーイフレンド」はカラオケで歌うには異常に難しい曲になってしまった。

 aikoの特徴、唯一無二な要素は、この「半音」にあると思う。ブルース曲のように半音をぶつけてくるのが、aiko楽曲のおいしい部分である。ブルースが盛んな大阪で育ったというバックグラウンドが、彼女の曲作りに影響しているのか? aikoの生み出すメロディーは独特、いい意味でセオリーから外れていると思う。

 ポルノグラフィティ・岡野昭仁が取り上げたのは、「カブトムシ」だった。歌詞もメロディーも全部スゴい、言わずとしれた名曲だ。槇原敬之は「僕がこんな曲を書けたら引退します」と発言したと聞くし、松任谷正隆は音楽学校の生徒が同曲を歌ったのを聴き、生まれて初めて自らCDを買って「カブトムシ」を入手したそうだ。

 この曲のメロディーラインを、オーイシが解説する。題して、「『カブトムシ』に潜むAm(Aマイナー)の奇跡」なる考察。以下が「カブトムシ」終盤の歌詞である。

「流れ星ながれる 苦しうれし胸の痛み 生涯忘れることはないでしょう」
 
 この中の「生涯」の「生」がAマイナーにあたるそう。試しに、オーイシはギターでE♭(Eフラット)キーのコードを弾き、その中にランダムにAマイナーを入れ込んでみた。すると、明らかにAマイナーの部分だけ気持ち悪いのだ。テープの回転数がおかしいような違和感というか。この気持ち悪い音が、同じくEフラットで展開される「カブトムシ」では不思議とぴったりハマった。明らかに異質なAマイナーが、この曲の中ではバッチリ自然なのだ。

「AマイナーはEフラット上で入れ込もうにも入れ込めないコードなんですが、それをサラッと入れている。前後のコードの流れとメロディーの構成によって、めちゃくちゃフックになってるんです」(オーイシ)

 さらに、オーイシは続ける。

「これって、音楽理論の中でやろうと思うとなかなか辿り着けない境地です。シンガーソングライターは自分の曲で自らが思うメロディーやコード進行を作るじゃないですか? だからこそ、直感的に生まれた“奇跡のAマイナー”なんです」(オーイシ)

 音楽理論として違和感のあるコード進行だが、それがピタッとハマったから奇跡なのだとオーイシは主張する。素晴らしい解説だ。

 aiko本人がこれを自覚的に行ったのか、それともただの偶然なのかは不明。ただ、aikoは大阪音楽大学短大部を卒業しており、音楽を学んだ下地がちゃんとある。不意に一瞬だけスケールアウトする音を入れ込むのは、彼女の楽曲の特徴だ。そして……これは下衆の勘繰りだが、aikoの変態的な曲作り法は、元恋人・星野源にも受け継がれた気がするのだ。

 今回のaiko特集は充実の内容だったと思う。数週間前の宇多田特集が寂しい内容だっただけに、なおさら胸に響いた。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2022/05/22 20:00
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