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鈴木もぐら「歯がいらな~い」古くて新しい食リポの様式美

鈴木もぐら「歯がいらな~い」古くて新しい食リポの様式美の画像1
『歯無しのグルメ~噛まずにとろける美味い店~』(TBS系)

 テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(5月22~28日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

空気階段・鈴木もぐら「歯がいらな~い」

 ある種の食リポは様式の集合である。入店前に店の場所をキョロキョロと探索したり、食品をつかんだら箸をしばらく止めてカメラにじっくり映したり。「口のなかでとろける」「しつこくないから何度でも食べられる」といった定型句も多い。

 そういう技術は、テレビの短い時間でインパクトと的確さを両立させたリポートを成立させるために、試行錯誤の末に生み出されたものだろう。ただ、それらは、もはやタレントたちのみに共有されたものではない。食リポを専門にするタレントによって流布されるなかで、視聴者にも共有された様式として定着してきた。

 レクチャーの過程もまた定型的だ。「おいしくないものを食べたときにはなんていうの?」と聞かれた食リポ専従タレントが、「好きな人にはたまらない」と模範解答を示す。食リポそれ自体だけでなく、食リポを教える際の一連のやり取りまで含めて、食リポの様式と言えるかもしれない。

 もちろん、新しい食リポが編み出されるときもある。これまでも石塚英彦(ホンジャマカ)らが「まいう~」といった決めゼリフをつくったり、彦摩呂が「海の宝石箱や~」とたとえたりしてきた。しかし、そういった方法もすぐにフォロワーがあふれる。方法は様式になっていく。それを単に“様式”ではなく“様式美”と自分で言い始めると、なんだかおかしなことになってくるわけだけど。

 さて、そんな食リポの定型句のひとつに「歯がいらない」というのがある。歯がなくても噛み切れるほど柔らかい。料理の柔らかさを最大限に伝えるときにしばしば使われるフレーズだ。

 そんな食レポの定型句「歯がいらない」を、「歯がない」人が言っていた。28日の『歯無しのグルメ~噛まずにとろける美味い店~』(TBS系)でのことだ。ドラマ仕立てのこの番組は、鈴木もぐら(空気階段)が主人公。奥歯が6本ないというもぐらは、歯がなくても食べられる柔らかいものを求めて飲食店を散策する。たどりついた店では、もぐらの心の声が料理や店内の様子を“食リポ”する。タイトルから示唆されるとおり、『孤独のグルメ』(テレビ東京系)がパロディされている。

 もぐらがドラマのなかで口にするのは、一般的には歯がないと食べられないと思われる歯ごたえのあるもの、なかなか噛み切れないものが多い。もつ焼きだったり、分厚いタンだったり、ロースカツだったり。奥歯がまた1本持っていかれるのではないか。そんな心配をよそに、もぐらは腹にガツンとくるものを選ぶ。歯が立たないと思われる料理に歯を立てる。そして、至福の喜びを(奥歯のない歯列で)噛みしめながら言うのだ。

「やわらか~い。歯がいらな~い」

 お約束のように繰り返されるフレーズ。実際に歯がない人が「歯がいらない」と言うことの説得力とおかしみ。もぐらの至福の表情も笑いを誘う。食リポで「歯がいらない」という定型句を聞いたら、もぐらの顔がしばらく浮かびそうだ。これで食レポの様式を見るのも楽しくなる……かもしれない。

 番組で紹介された店、もしかしたら放送後に歯のない人であふれていたりはしないだろうか。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のスタッフが“逸材”を探しに来ていたりはしないだろうか。

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