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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.689

阪本監督が撮った伊藤健太郎の復帰作『冬薔薇』 現実認識の甘かった男の行く末は?

甘い考えのまま社会復帰しても、馬脚を露すことに

阪本監督が撮った伊藤健太郎の復帰作『冬薔薇』 現実認識の甘かった男の行く末は?の画像3
夫が気まぐれで買ってきた冬薔薇の世話を、妻の道子(余貴美子)がすることに

 寒い季節に咲く冬薔薇は、冬の花壇を賑わせてくれるが、ひっそりと咲く姿はどこか寂しげな雰囲気も漂わせている。そんな冬薔薇に淳の両親は、毎日きちんと水を注ぎ、温かい視線を投げかける。口をきかない草花には優しくできるのに、どうして血の繋がった家族にはうまく接することができないのだろうか。同じ屋根の下で暮らす家族にも、何気なく水=愛情を注げばいいのに。

 いや、そうではない。両親はちゃんと淳に愛情を注いでいる。だが、お互いに言葉足らずで、見栄えのよくない愛情を、うまく認識できずにいるだけなのだ。不器用なりの、あまり見栄えのよくない愛を、ちゃんと認識して受け止めることができれば、この家族は機能不全状態から脱することができるはずだ。愛にはラベルが貼られておらず、無色無臭で、しかも不定形なので、多くの人はそれを愛だと気づかずに見逃してしまう。愛は与えられるものではなく、愛は感じ取るものだろう。

 主演映画が封切られ、芸能界に本格復帰する伊藤健太郎のことを、素晴らしい監督やスタッフ、共演者たちに囲まれ、恵まれすぎていると思わないでもない。でも、一度でもミスを犯した人間がマスコミやSNSによって容赦なくバッシングされる現代社会への、阪本監督なりの異議申し立てのようにも感じる。また、本人が甘い考えのまま社会復帰しても、すぐに馬脚が露われることも本作は示唆している。過ちを犯した人間が社会復帰できるかどうかは、結局は本人の覚悟次第だ。

 伊藤健太郎の主演映画『冬薔薇』を観た観客たちは、彼の芸能界復帰をどうジャッジするだろうか。

 

『冬薔薇(ふゆそうび)』
脚本・監督/阪本順治 製作総指揮/木下直哉
出演/伊藤健太郎、小林薫、余貴美子、眞木蔵人、永山絢斗、毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、佐久本宝、和田光沙、笠松伴助、伊武雅刀、石橋蓮司
配給/キノフィルムズ PG12 6月3日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
fuyusoubi.jp

最終更新:2022/06/03 13:00
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