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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.705

「彼女は私だ」幡ヶ谷バス停殺人事件をモチーフにした劇映画『夜明けまでバス停で』

映画の主人公に与えられた、異なる人生の選択肢

「彼女は私だ」幡ヶ谷バス停殺人事件をモチーフにした劇映画『夜明けまでバス停で』の画像2
女性の路上生活者は、男性よりも把握されにくいとされている

 主演の板谷由夏は、『news zero』(日本テレビ系)のキャスター経験もある売れっ子女優だ。『37セカンズ』(20)では漫画家を目指すヒロインを叱咤するらつ腕編集長、現在公開中の東宝映画『百花』では産婦人科医など、キャリアウーマンを演じることが多い。高橋伴明監督の作品への出演は、「あさま山荘事件」をモチーフにした『光の雨』(01)以来、21年ぶりだ。

 本作は脚色された劇映画として展開される。主人公の三知子(板谷由夏)はアクセサリー職人だが、手作りアクセサリーの販売だけでは生活できず、居酒屋で働いていた。フィリピンから来た洗い場担当のマリア(ルビーモレノ)は孫たちの食費に困っているため、お客が手を付けなかった料理を三知子はこっそりとビニール袋に詰めて渡している。男性スタッフが大声で猥談していると「それ、セクハラだよ」とたしなめる。非正規雇用ながら、お店を切り盛りしている三知子だった。

 ところが、コロナ不況が飲食店業界を直撃し、社員であるマネージャー・大河原(三浦貴大)は三知子やマリアたち非正規雇用のスタッフをあっさりと解雇してしまう。しかも、退職金を渡そうとしない。社員寮として会社が借りていたアパートも出ることになった三知子は、住み込みの仕事を探すが、どこも新規採用は見送っている状態だった。

 三知子を慕っていた店長の千春(大西礼芳)、懇意にしていたカフェのオーナー・マリ(筒井真理子)が心配して三知子の携帯電話に連絡を入れるが、三知子は電話に出ようとはしなかった。仲のよかった人にほど、自分の惨めな姿を見せたくない、迷惑を掛けたくない。三知子の生真面目な性格が、彼女自身をより苦境に追い込んでしまう。

 このまま劇中の三知子も、実際に起きた事件と同じ悲しい結末を迎えるのだろうか。自尊心を失なうことなく、真面目に働き続けた大林さんの生き方に敬意を払いつつ、伴明監督は劇中の三知子に異なる人生の選択肢を与えている。

 行き場所を失った三知子は、日中は公園で過ごすようになり、ホームレスのひとり、通称・バクダン(柄本明)と知り合う。バクダンは全共闘時代の元闘士で、爆弾づくりが得意だった。バクダンが暮らす段ボールハウスを訪ねた三知子は、一冊の本を手渡される。

 三知子が受け取った本は『腹腹時計』と呼ばれる地下出版本だ。1970年代に過激派グループが書き記した時限爆弾の作り方のマニュアルである。それまで社会に逆らうことなく、黙々と働いてきた三知子は、その結果「自己責任」という言葉に追い詰められてしまった。社会に絶望していた。だが『腹腹時計』を手渡されたことで、三知子は生きる気力を取り戻していく。

 三知子は「心の爆弾」を持つことで、ただ従順に生きてきたこれまでの人生を変えていこうとする。(2/3 P3はこちら

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