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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.705

「彼女は私だ」幡ヶ谷バス停殺人事件をモチーフにした劇映画『夜明けまでバス停で』

高橋伴明監督がエンドロールに仕掛けたサプライズ

「彼女は私だ」幡ヶ谷バス停殺人事件をモチーフにした劇映画『夜明けまでバス停で』の画像3
バクダン(柄本明)と出会い、三知子(板谷由夏)は新しい人生を選ぶ

 幡ヶ谷のバス停で起きた事件がきっかけで、「排除ベンチ」「排除アート」の存在もクローズアップされるようになった。大林さんが休んでいたバス停のベンチは幅が狭く、浅く腰掛けることしかできないデザインだった。バス停や駅前のベンチだけでなく、公園の新しいベンチにも仕切りがあり、横になることができないようになっている。かつては段ボールハウスが並んでいたガード下などの街の空きスペースには、排除アート、もしくは排除オブジェと呼ばれる謎の物体が置かれるようになった。

 排除ベンチや排除アートが普及し、駅前や公園などの人目につく場所からホームレスの姿を見ることは減っている。だが、ホームレスそのものが社会から消えたわけではない。見えにくい場所へ、彼らを追いやっただけに過ぎない。ホームレスを生み出す社会の歪みはそのままだ。排除ベンチや排除アートを見て、社会の不寛容さを感じる人も少なくないだろう。ごく普通の市民が急に気分が悪くなっても、横になれる場所は今の街にはどこにもない。

 亡くなった大林さんは、真面目で働き者だった。そんな彼女がコロナがきっかけでつまずき、自己責任という言葉に追い詰められていった。コロナや災害だけでなく、誰もが病気や事故に遭う可能性がある。フリーランスのライターをしている自分も、面倒見のいい親族、気のいい友人、懐の深い仕事仲間たちのおかげでなんとか生活を続けてきただけに過ぎない。いつ自分自身が路上生活者になるか分からない。「彼女は私だ」と感じながら、この記事を書いている。

 伴明監督は、劇中の三知子に『腹腹時計』を持たせたが、『腹腹時計』は全共闘世代ならではの心を鼓舞するための一種のシンボルだろう。「心の爆弾」を持つことで、従順だった三知子の人生は大きく変わっていく。社会的弱者を次々と排除しようとする不条理な世の中に対する怒りや悲しみを「心の爆弾」に変えて、三知子は強く生きようとする。

 エンドロールが流れ始めても、席を立たないでほしい。物語の最後の最後に、伴明監督が用意したサプライズ映像が待っている。この映像は、伴明監督がプロデューサーには内緒で編集中に付け加えたものだそうだ。伴明監督も「心の爆弾」の持ち主だ。

 異なる人生を歩み始めたもう一人の彼女の姿を、どうか劇場で見届けてほしい。

『夜明けまでバス停で』
監督/高橋伴明 脚本/梶原阿貴
出演/板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビーモレノ、片岡礼子、土居志央梨、あめくみちこ、幕雄仁、鈴木秀人、長尾和宏、福地展成、小倉早貴、柄本佑、下元志朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明
配給/渋谷プロダクション 10月8日(土)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサ、イオンシネマ広島西風新都ほか全国順次公開
©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
yoakemademovie.com

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2022/09/22 21:43
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