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朝ドラWATCHコラム『ちむどんどん』第24週

『ちむどんどん』しあわせが自動的に供給され、成長させてもらえない主人公(第24週)

『ちむどんどん』しあわせが自動的に供給され、成長させてもらえない主人公(第24週)の画像
イラスト/渡辺裕子

 なにか悩み事がある時、どちらに相談しますか。

(1)「わからない……」と言いながらも、最後まで話を聞いてくれる人
(2)話の途中でさえぎって「あーわかるわかる、そんなの簡単、こうしたらいいんだよ!」と言い切る人

 悩みそのものは解決しなくても、気持ちが軽くなるのは(1)の「結論を急いで出すことなく、とにかく話を聞いてくれる人」との会話だと思います。(2)は「そういう悩みに理解がある自分」に自信がありすぎて深く考えていないので、出してくる解決策は的外れなことが多い。そして、朝ドラ『ちむどんどん』がもし人間だったら……仮に「ちむどんさん」とでも呼びましょうか、私にとってちむどんさんは(2)です。

 「経営する店が繁盛するには」「フリーランスが地方に住んでも生活が成り立つようにするには」……。そんな悩みに「うんうんわかるー、こうしなよ!」とちむどんさんが出してくる案は、「偶然on偶然でうまくいく」「インターネットもない時代だけど、なぜかどこでも仕事できるからうまくいく」など。「いや、もうちょっと実現可能な話を」と声をかけると「はーい、出産から4年経ちましたー! 暢子も子どもも元気でーす! 店はうまくいってまーす!」「沖縄に移住することにして2カ月経ちましたー! はい送別会ー!」と、ぽんぽんと双六のコマを飛ぶ、時間ワープの術を使われてしまう。飛ばされたコマとコマの間の話がいちばん気になるのに。「歌子は東京にいる間は歌わず、店の手伝いだけに数年を費やしたんですか?」「暢子がやんばるに帰りたいって思うようになったのはなぜですか?」「実家に戻るのに移住って言うのおかしくないですか?」などの問いに返ってくる答えは「まくとぅそーけー、なんくるないさー!」のみ。ちむどんさんはずっとこんな感じで、全然私の話を聞いてくれない人。

 ちむどんさんのお気に入り・暢子(黒島結菜)は、このドラマの中で「お誕生日席」に座らされている。遠い島から冒険しにきたと表現されていたけれど、実際は大きなテーブルの奥に座ったまま、自らは動かない。テーブルは回転寿司方式になっていて、ちむどんさんが暢子の前にさまざまな「しあわせ」を自動で流すので、彼女はちょっと手を伸ばしてそれを取るだけでいい。偶然出会った人に紹介された銀座のイタリア料理店での仕事、オーナーは偶然にも親戚、偶然再会した幼なじみは長年の恋人と別れて夫となり、200万円ゲットして沖縄料理店をスタート、偶然やってくる皮付きの豚肉、たまたま母が譲られたやんばるの畑。お皿に乗って次々やってくるしあわせを自分のものにして「ちむどんどんする!」と叫び、その興奮が消えればまた新しい皿を取る。不要になった皿は他の人が引き受ける。沖縄料理店「ちむどんどん」を、彼女のいらない皿として継ぐことになった矢作(井之脇海)、それでいいのか……。でも、正直言って暢子が店長の時よりも絶対いい店になると思う。無愛想だけど気配りできる店主が作る、イタリアンと沖縄料理を融合させた創作料理。接客するのは笑顔のおかみさん。こういう店なら常連になりたい。

 ちむどんさんに「さすが暢子さん!」と褒め称えられる、しあわせなはずの暢子。だけど彼女もかわいそうだ。どんな料理人になるのか。店を軌道に乗せるにはどうしたらいいのか。妊娠と出産をどんなふうに乗り切るのか。育児と仕事の両立は。そんな彼女なりの「悩み事」を、「ここに座っていればいいよ、そんな問題は簡単に解決できるんだから」と言うちむどんさんのせいで、経験できず、成長もできなかった。そのせいか、母親になってもまだ高校生くらいの精神状態に見える。なんであんなにゆし豆腐にこだわったのか。あの地域の人たち、みんな毎日のように食べてると思うけど。そしてちむどんさんは、回転寿司の皿に人も載せる。店では歌子(上白石萌歌)が働き、子どもは重子(鈴木保奈美)と多江(長野里美)がすすんで世話をする。すべて暢子のしあわせのため。「家庭と仕事の両立大変ですよね、わかるわかる。そんな時は暇な女の人たちが無償で手伝えばいいんですよ、ほら解決!」 そう言ってにっこり笑うちむどんさんとの付き合い、残りあと1週間。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ちむどんどん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:黒島結菜、仲間由紀恵、大森南朋、竜星涼、川口春奈、上白石萌歌ほか
作:羽原大介
音楽:岡部啓一、高田龍一、帆足圭吾
主題歌:三浦大知「燦燦」
語り:ジョン・カビラ
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:高橋優香子、松田恭典
広報プロデューサー:川口俊介、鈴木 葵
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
制作:NHK
公式サイト:nhk.or.jp/chimudondon

渡辺裕子(イラストレーター/コラムニスト)

テレビ大好きイラストレーター。
テレビや映画について書いてるnote → http://note.mu/satohi11

わたなべひろこ

最終更新:2023/02/04 23:38
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