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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.706

阿部サダヲ主演の痛快コメディと思いきや…孤独死を描く『アイ・アム まきもと』

孤独死を遂げた故人は、孤独な生涯だったのか?

阿部サダヲ主演の痛快コメディと思いきや…孤独死を描く『アイ・アム まきもと』の画像2
異臭ただようゴミ屋敷状態の家に向かう牧本(阿部サダヲ)

 本作の原作となる『おみおくりの作法』は、ベネチア映画祭で四冠を受賞した秀作として知られている。『フル・モンティ』(97)などのヒット作をプロデュースしたウベルト・パゾリーニ監督によるオリジナル版のストーリーに、『アイ・アム まきもと』はかなり忠実に従っている。

 牧本の勤める市役所に、県庁から新しい局長・小野口(坪倉由幸)がやってきた。小野口は局内の業務内容を見直し、非効率的な仕事を長年続けてきた「おみおくり係」を他の部署に併合することを決める。先日、孤独死状態で見つかった老人・蕪木(宇崎竜童)の火葬を済ませることが、牧本の最後の仕事となる。蕪木と疎遠になっていた遺族や知人たちを火葬前の葬儀に呼ぼうと尽力する牧本だった。

 酒癖が悪く、粗暴な立ち振る舞いが多かったという蕪木だが、かつて彼が勤めていた食品工場を牧本が訪ねると、仲間想いで、男気があったと元同僚の平光(松尾スズキ)が懐かしそうに語った。作業中の事故で指を失った平光のために、蕪木は会社に体を張って抗議したという。職場のヒーローとなった蕪木だったが、しばらくして姿を消したらしい。

 若い頃は炭鉱で働き、今は施設で暮らす槍田(國村隼)は、炭鉱で事故に遭った際に蕪木に命を救われたという。蕪木は女性にモテて、港町に恋人・みはる(宮沢りえ)がいたことも分かる。孤独死を遂げた蕪木だったが、生前の彼は決して孤独ではなく、仲間や愛する人がいたことを牧本は知る。

 刑事の神代(松下洸平)は、牧本の常識はずれな行動を苦々しく思っていた。警察署の遺体安置所を、牧本はまるで冷蔵庫かのように気軽に使うからだ。神代が文句を言っても、牧本は意に介さない。逆に蕪木の前科歴を調べてほしいと牧本に懇願され、留置所に入っていた蕪木に面会にきた家族がいた記録が見つかる。記録に載っていた住所を頼りに、牧本は蕪木のひとり娘・塔子(満島ひかり)のもとを訪れる。

 家族はとてもやっかいだ。同じ血が流れ、一緒に暮らしていたぶんだけ、お互いに遠慮がなく、思いやりのない言葉をつい投げ掛けてしまいがちだ。塔子は蕪木の身勝手さに母親が苦しむのを見てきた。家族は一度壊れてしまうと、修復するのはほぼ不可能に近い。

 それでも牧本は、蕪木の葬儀に塔子も出てほしいと頼む。生前の蕪木とはまったく面識のないはずの牧本が、なぜそこまで葬儀に懸命になっているのか、実の娘である塔子には理解しがたいものがあった。

 他の人もみんなそうだ。誰しも今を生きるので精一杯で、縁が切れてしまった人のことまで思いやる余裕がない。まして孤独死を遂げた者は、いっそう周囲から迷惑がられることになる。無縁仏が次々と増え続けるという、シビアな現実だけが残されていく。(2/3 P3はこちら

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