歴史エッセイスト・堀江宏樹の「大河ドラマ」勝手に放送講義

『鎌倉殿』の愛されキャラとは異なる、「知性と剛腕を兼ね備えたリーダー」北条時政

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

──歴史エッセイスト・堀江宏樹が国民的番組・NHK「大河ドラマ」(など)に登場した人や事件をテーマに、ドラマと史実の交差点を探るべく自由勝手に考察していく! 前回はコチラ

『鎌倉殿』の愛されキャラとは異なる、「知性と剛腕を兼ね備えたリーダー」北条時政の画像1
北条家一同|ドラマ公式サイトより

 『鎌倉殿の13人』第37回は、「オンベレブンビンバ」という謎めいたタイトルが放送前から注目され、視聴者の間ではイタリア語ではないか?などの推理も盛り上がっていましたが、蓋を開ければ、大姫(南沙良さん)が唱えていた“元気になるおまじない”の「オンタラクソワカ」を、北条時政(坂東彌十郎さん)が“いいことがあるおまじない”としてその文言も効用も覚え間違いしていたものだという結果に終わりました。

 筆者は、「オンベレブンビンバ」が造語であり、なにかの呪文であるというところまでは推理できていましたが、時政の覚え間違いとなると、お手上げというしかありません(苦笑)。北条家の誰もが正確には思い出すことができなかった「オンベレブンビンバ」の正体について、即座に長澤まさみさんのナレーションで「オンタラクソワカ」だと訂正されていましたが、これは虚空蔵菩薩のご加護を願って唱える「ご真言」の一部で、より正確には「オン バザラ アラタンノウ オンタラク ソワカ」の一部だそうです。空海も特に崇拝していたという虚空蔵菩薩のご真言は、記憶力を飛躍的に高めるご利益が期待できるもので、大姫や時政のいうようなおまじないではなさそうですが……。

 ただ、この“おまじない”を北条家の皆が思い出そうとする中で、彼らの仲睦まじい団らんを久しぶりに見ることができました。その意味では“いいことがあるおまじない”だったのでしょうし、しかしそれを正確に思い出せなかったことは北条家の命運を暗示しているのでしょう。おそらく最後になるであろうこの光景に、「泣けた」という声もネット上には多くありました。『鎌倉殿』は、時政という人物を一貫して、とにかく愛嬌に溢れ、にくめない男として描いてきたからこそ、義時らによる彼の追放は悲劇になってしまうのだろうと感じます。

 「北条家は伊豆の小豪族として、本来、こういうふうに穏やかに過ごせていたはずが、頼朝(大泉洋さん)とりく(宮沢りえさん)という外部から来た人間の影響で運命が変わってしまったのかもしれない」とする声も見られました。実際、京都という当時の日本随一の文明社会から、僻地だった関東に流れてきた頼朝と牧の方(=りく)の生き方には、関東の豪族・北条家にはない発想が、あまりに多くあったようです。

 ところで、第37回の放送直後には、『鎌倉殿』公式サイトに平賀朝雅を演じている山中崇さんのインタビュー(https://www.nhk.or.jp/kamakura13/special/interview/072.html)が掲載されましたが、非常に興味深い話がありました。山中さんは、脚本の三谷幸喜さんから「りくではなく、宮沢りえさんを口説くように演じてほしい」とオーダーされたそうです。

 平賀朝雅は、時政と牧の方の間に生まれた娘と結婚しているのですが、『鎌倉殿』では、りく(=牧の方)に取り入るため彼女に色目を使ったという演出になっており、りくもそんな平賀の甘い言葉に騙され(たフリをして)、「あなたは私の特別な人(だからもっと頑張って)」と読めるような“しな”を作り続けたのだと思われます。実際に男女の関係になるかどうかはともかく、お互いに相手からの好意を自分の利益のために利用し尽くそうという、当時の京都の貴族社会の社交術ですね。疑似恋愛的というか……。りくが朝雅の言葉を簡単に信じてしまったことや、「朝雅を鎌倉殿に」と野心を燃やした背景には、こういう京都の上流社会ではありがちな、お互いを利用しあう大人の男女の関係をベースとしたウラの事情があったのかもしれません。

 ドラマの平賀朝雅は、源仲章(生田斗真さん)に「あなたは本来、鎌倉殿の座を狙えるお血筋」とそそのかされた結果にせよ、時政・りくの長男・北条政範(中川翼さん)の暗殺に手を染めていましたが、彼もかなりの野心家であるかと思いきや、時政から実際に「源実朝を引きずり下ろす計画があるから、その時はあなたが次の鎌倉殿になってくれ」という要請を受けると朝雅は「こんな時にわしは鎌倉殿などなりとうない」と恐れおののき、命の危険すら感じているシーンが第37回にありました。りくは、夫の時政はもちろん、朝雅にとっても扱いに困る女性になっているようです。

 りくから「いいお顔つきになられましたね。覚悟を決めた男の顔って、こんなにも艶っぽいのですね」などと甘い言葉を囁かれていた時政ですが、筆者には苦渋の面持ちに見えました。それでも妻から求められたとおり、実朝を鎌倉殿の座から引きずり降ろそうとしている時政の姿には、妻の暴走を止めるため、自分もろとも謀反人としてわざと討ち取りやすく振る舞っているような悲壮感すらありましたね。

 次回・第38回「時を継ぐ者」の内容は、予告映像を見るかぎり、かなり不穏です。時政が「ここでお別れでござる」と言うシーンは、出家させられた上に追放もされたという史実の展開とは少々不釣り合いな気がしますし、何より善児(梶原善さん)のあとを引き継ぎ、暗殺の汚れ仕事を手伝うトウ(山本千尋さん)の姿も予告にはあったことから、もしかして時政が暗殺される独自展開もあるのではないか……などとも思われました。

 時政の心中を一番理解できているからこそ、義時もつらいでしょう。次回は我々にとっても、かなり気分が落ち込みそうな厳しい展開が続きそうです。……などとドラマの考察が長引いてしまいましたが、今回は坂東彌十郎さんが好演してきた北条時政について、ドラマのキャラクターと史実との違いを見ながら振り返ってみましょうか。(1/2 P2はこちら

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