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矢沢永吉とソウル~AOR~シンセ・ファンク いま改めて注目すべき“ロックスター”の音楽的冒険とは

矢沢流のクロスオーバー・サウンド~AORの完成

矢沢永吉とソウル~AOR~シンセ・ファンク いま改めて注目すべき“ロックスター”の音楽的冒険とはの画像2
81年作『YAZAWA』

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 ロサンゼルスで録音され、海外配給もなされた矢沢の勝負作『YAZAWA』(’81)は、ドゥービー・ブラザーズのボビー・ラカインドと、リトル・フィートのポール・バレアの共同プロデュース。参加ミュージシャンもジョン・マクフィー(ギター)をはじめ、両バンドのメンバーが多数を占めている。マイケル・マクドナルドの加入以降、洗練されたアメリカン・ロック~AORのサウンドを追求していたドゥービー・ブラザーズと、ポール・バレアの影響で徐々にジャズ・フュージョン色を増していった中で活動を休止したリトル・フィート。この2バンドのメンバーたちをパートナーに選んだところにも、特定のジャンルに偏らない、矢沢のある種のクロスオーバー志向を感じるところがある。

 この充実作でまず先に紹介したいのが、最高のミディアム・グルーヴ「SUGAR DADDY」だ。まさにリトル・フィートに通じる、後ろに引っ張られるようなレイドバックしたリズムが心地よい楽曲である。


(※このアルバムは計4名のドラマーが参加していることがクレジットからわかるが、誰がどの曲を担当したかは記載がない)

 もう一曲重要なのが、矢沢のソウル的側面とロックが融合した「DANCE THE NIGHT AWAY」。エモーションズ「Best of My Love」(‘77)、およびシェリル・リン「Got to Be Real」(‘78)のヒットを通じて世界的に広まった特徴的なリズムパターン「スウェイ・ビート」を独自の解釈で取り入れたようなビートの上で、つんのめるように歌詞を畳み掛ける矢沢のヴォーカルが印象的な楽曲である。

 こうした『YAZAWA』での成果を引っさげ、日本人のメンバーと作り上げたのが『RISING SUN』(’81)だ。中でも動き回るギターリフ・ベースが印象的な「HEY BOBBY」は、前述の「DANCE THE NIGHT AWAY」無くしては生まれなかったグルーヴに思える。

 そうした中で、矢沢のグルーヴィな楽曲はAORに通じる洗練性を深めていく。スティーリー・ダン「Josie」を矢沢流に発展させたような「EBB TIDE」(82年作『P.M.9』収録)はその筆頭だろう。矢沢とスティーリー・ダンは一見、縁遠いように思えるが、ここまで読んだ読者の方ならすんなり受け入れられるはずだ。

 AORに通じる清涼感のあるサウンドは、「時間よ止まれ」「THIS IS A SONG FOR COCA-COLA」などこの時期以前のヒットシングルにも垣間見えるが、そうしたサウンドを発展させた楽曲――「ミスティ misty」「このまま…」(ともに83年作『I am a Model』収録)などを矢沢は多数生み出していく。海外を起点として、ヨットロック(日本で云うAOR)や日本産のシティポップ~広義の“和モノ”グルーヴの再評価がここ10年ほど続いているが、矢沢のこうした楽曲にももっとスポットライトが当たっていいだろう。

 もっとも、現代のシティポップ・ムーヴメントで特に熱い注目を浴びているのは、よりデジタルなサウンド、いわゆるシンセ・ブギー的なものではあるが、実は矢沢はそうした楽曲も多数リリースしている。ここからは、彼の1984年以降の楽曲を参照していこう。(2/3 P3はこちら

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