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KEN THE 390ロングインタビュー

KEN THE 390はヒップホップにもう一回期待する――ケンザが語る、Maison Bと日本のシーンのこれまでとこれから

いろんな意味で今もう1回ヒップホップに期待してる

KEN THE 390はヒップホップにもう一回期待する――ケンザが語る、Maison Bと日本のシーンのこれまでとこれからの画像6
写真/石田寛

――時代の変化ということでは、この10年ほどで日本もCDからサブスクに移行していく大きな変化がありました。

KEN 今はタイムリーに出せる時代ですよね。僕らって、作って絶対に2カ月3カ月はしないとパッケージングできない世界で育ってきたから。でも今は2週間前に納品できれば大体なんとかなるみたいな(笑)。タイム感も全然違うし、手軽に出せるし、このおもしろみはヒップホップ界隈はみんなうまく生かしてるけど。

――ヒップホップは早いうちからCDを出さないって人も多かったですよね。

KEN 今はインディペンデントでも全世界に配信できるし、そういう状況ってこれまでじゃ考えられなかったから。ダメレコぐらいから初めて自分たちのレーベルでインディーズCDが出せるみたいな感じだったんですけど、それ以前はどっかのレーベルに入らないと絶対CDは出せなかったし、ってことはどんな才能も1回誰かに見つけてもらわないといけない。自分発信じゃできることがなかった時代なので。でも今はみんなが自分で発信するから、見つけさせる努力も要るかもしれないけど、全然違う世界だと思ってて。だから、超おもしろくなってるんじゃないかなと思います。昔が逆にめっちゃ窮屈だったよなって(笑)。一度誰か大人にちゃんと見てもらわなきゃいけない、みたいな。すごい大変だったなって思います。僕はまだギリ良かったけど、僕より前の人たちなんて、それで埋もれた才能とか山ほどいるかなと思うんですよね。

――ちょうどメジャーにいらっしゃった頃って、着うたの衰退期あたりでしょうか。

KEN ちょうど入った頃に着うた着メロブームがあって。でもアルバムが出る頃は2010年とか2011年だったんで、それもなくなってきてるぐらいだったかな。

――最近友人と、日本の音楽業界はあれでダメになったんじゃないかって話になって(笑)。

KEN それは僕もはっきりとは言えないですけど(笑)。どうしても保守的になっちゃってる瞬間があるかなと思います、現状を見ていても、まだ。そうじゃない人たちもいっぱいいるけど、中途半端に儲かってるから諦めが悪いみたいなところもあって、でも結果それで差がついちゃって、どんどんガラパゴス化してしまったところもきっとあると思います。まぁ、過渡期なんじゃないですかね。もうメジャーもさすがにCDの時代は……。聞けないですしね、CD。プレイヤー持ってない人もいるし、パソコンにも付いてないし、今の中高生が普通にCDを聞けるとはなかなか思えないんで。そういう状況だから、変わってくるんじゃないですか。メジャーも配信だけのレーベル持ってたり、いろいろ模索してるところもきっとあるんじゃないかと思ってるんですけど。でも逆にメジャーの宣伝力とか配給力みたいなところでヒットしてるところもまだいっぱいあると思うし、だから、淘汰が進むんじゃないですかね。

 制作自体はアーティスト周りとか事務所とか、ちっちゃいインディーズでもいいしレーベルなりでやりきっちゃって、その先の宣伝することとか配給することに対してメジャーレーベルがあるみたいな感じでいいんじゃないかなとは思います。クリエイティブをもうちょっとアーティストが持てないと。制作までメジャーに頼まなきゃ作れないみたいなことってアーティストとしてはどうなのかなと。クリエイティブを自分たちで持つことによって、もっと風通しとか差別化とか生まれてきたりするんじゃないかなと思ってます。

――レコード会社というよりも、どういいマネジメントを見つけるか、いいスタッフとチームを組むかですね。

KEN 本当そうです。会社じゃなくて、完全に人ですからね。どのレーベルと組むとかじゃなくて、誰とやるか。いい人とやれるんだったらやったほうがいいかもしれないし、いい人とやれないんだったらやらないほうがいいんじゃないかな。

――よくご自身のことを真面目っておっしゃってますが、それってある種の信頼感でもあると思うんですよね。それこそレーベルをずっと続けてるっていう信頼もありますし。Maison Bのメンバーも、ケンザさんから声を掛けられた時は戸惑ったでしょうが、そういう信頼感があったからうまくいったのかなと思いました。

KEN それもあるかもしれないですけど、トレーナーしてる時の僕の態度とかも影響してるんじゃないですか(笑)。「こいつとは無理だな」って思われてたらやっぱりやらないと思うし。

 あと僕、自分の本業の楽曲のスタイルとしてマイクリレーが好きなので、いろんなラッパーを呼んで一つの曲をまとめていくみたいなことをずっと昔からやってて。それが結果的に他の仕事につながってるなって思うんです。『ダンジョン』始まってから、こういうCMでラッパー何人かでやりたいんですって仕事が来たときに、具現化できる人って多分あんまりいないんですよ。ラッパーとコンタクトを取って、趣旨を伝えて、歌詞を書いてもらって、一つのCMソングとしてまとめ上げて納品するみたいなことって多分代理店には難しくて、そういうのが僕に来る。いつもは自分の曲を作るためにみんなでやって、仲介して、一つに作り上げるみたいなことをずっとやってたその能力が生きてしまったみたいな(笑)。僕らには僕らの共通の世界観とか言語があって、でも社会には社会の共通の言語があって、僕は社会人も経験してるから多分どっちの言語も理解できる。そういう意味でバイリンガルだから、どっちの意図も相手に伝えられたり、そういうのも自分が歩んできたバックグラウンドがあるのかもしれないなって。ラッパーをまとめるの、めちゃくちゃ大変ですけどね(笑)。

――最後に、ご自身のことでもいいですし、大きく日本の音楽業界とかでもいいんですが、何か今後の展望みたいなものを伺えたら。

KEN そうですね……音楽業界全体の話までは僕はちょっとわからないかもしれないんですけど、やっぱりヒップホップはすごいおもしろいと思ってて。世界で見て、日本ってヒップホップがどうしても弱いというか、世界的にはメインストリームなのに、日本だとどうしてもアンダーグラウンドなものとしてずっと捉えられてきたのが、今ここ2~3年ぐらいですごい変わってきてるし、それこそいろんな大きなフェスを見ててもラッパーが出てると思うんですけど、あと5年とかしたら逆にメインステージがラッパーになってくるんじゃないかなっていう勢いだと僕は思ってて。

 僕らのフットワークの軽さとか曲の発想とか、考え方とかクリエイティビティみたいなのが、日本の音楽業界に入ってくると自然といろんなことが変わる気がするんですよね。反射能力の高さもそうだし、ラッパーってみんなインディペンデントだし、自分の意見がしっかりあるから。たとえメジャーレーベルと組んだとしても、多分みんな自分の言いたいことを今だったら言えると思うし、今はそれだけの力があるんですよ。昔はなかったから。数字がついてないと何も言えないっていうのがあって。今はヒップホップは追い風だから、自分がこういうことをやりたいとか言って説得力がある時代になってきて。言ってもまだラップは日本の中だとそんなに大きなものじゃないけど、これがグーッてきたら、自然に周りが変わらずにはいられないぐらいのエネルギーを持ったカルチャーだと思うんですよ。それでもっと日本の音楽業界の風通しが良くなったりするんじゃないですか。年功序列とかマジ関係ないって人たちがすげぇ入ってくる可能性あるから、自然といろいろ変わってくるんじゃないかなあ。

 だからいろんな意味で今もう1回ヒップホップに期待してるし、僕らのカルチャーとか考え方はやっぱめちゃくちゃおもしろいと思うし、それが他のジャンルとかにうまく混ざり合っていく――たとえば僕はいまボーイズグループという形で僕らのカルチャーと混ぜて、今までにないおもしろいものをアウトプットしようと思ってるけど、そういう考え方が他のジャンルの人たちとかとうまくもっと混ざっていったら、音楽業界自体がもっとアクティブになったり、もっとインディペンデントになったりしておもしろくなってくるんじゃないかなって、漠然とですけど思っています。

 

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KEN THE 390(ケン・ザ・サンキューマル)
ラッパー、音楽レーベル「DREAM BOY」主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねた後、2006年にアルバム『プロローグ』にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも行う。 またテレビ朝日にて放送されたMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』へ審査員として出演、その的確なコメントが話題を呼ぶ。 近年は、テレビ番組や各種CMなどの出演をはじめ、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、ラップ/ヒップホップを軸にその活動の幅を広げている。
公式サイト kenthe390.jp

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KEN THE 390 | Anything Goes feat. roomR(RICK & REIJI from Maison B)
各配信サービスにて好評配信中!

主催フェス『CITY GARDEN -超ライブフェスティバル-
日時:2022年11月6日(日) OPEN 13:00 / START 14:00
会場:豊洲PIT by Team Smile
料金:オールスタンディング 8,500円 チケットはこちら
出演:
RIP SLYME / SKY-HI / 梅田サイファー / AKLO / 向井太一 / KEN THE 390
[NEXT GENERATION LIVE]
O.B.S with LANA, BENXNI & TAHITI from STARKIDS / SKRYU / Maison B

末﨑裕之(ライター/編集者)

ライター・編集者。音楽を中心に、俳優・ドラマ~映画の取材まで。共著に『新R&B教本 2010sベスト・アルバム・ランキング』(スペースシャワーブックス)。まれにラジオ出演(NHKラジオ第1、FM802他)、作詞(アイドリング!!!他)も。
Twitter:@hsuezaki

すえざきひろゆき

最終更新:2023/03/14 14:07
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