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情報化社会を裏で動かす男たちを描く! 小説『インフォーマ』発売

夢を追い続けるという過酷さ

 長い歳月をかけ、自分のやりたいこと、私の場合は、文芸という作品作りを行うために、さまざまな仕事をしながら、睡眠時間をほぼ返上して書いていくのである。そうなってくると、やりたいはずだったことが、嫌で嫌で仕方ないくらいになるのだが、それこそが多分、夢を追い続けるということなのではないだろうか。

 夢を追い続けるということは、やはりそれくらい過酷でなければ、なんとなく申し訳が立たないではないか。まあまあ、いろいろな文句を言われながら、何かを犠牲にするのだ。そして勝負の世界同様、売れれば官軍なのである。

 毎回、本を出版するときは、熱を出すくらい、私なりに全力でとっかかっていくのだが、過去に出した、すべての出版物に満足できているかといえば、必ずしもそうではない。

 小説として考えた場合、『ムショぼけ』は映像化されているので、12作目にして、ようやく私の名刺代わりのような作品にすることができたのだが、その他の小説で、私自身が認めることができているのは、『忘れな草』(サイゾー)と『死に体』(れんが書房新社)の2冊くらいではないだろうか。

 特に『死に体』は、何で売れないのか?と、芥川龍之介にでも会ったら聞いてみたいくらいの自信があった。テーマも申し分なかったはずだ。あれが売れなければ、ーもうオレから名作は出てこないぞ!ーと真剣に考えていたほどだ。

 だが、すまない。誕生してしまった。『死に体』をも越える手応えがある作品が完成してしまったのだ。

 それが情報屋を題材にした小説『インフォーマ』である。

 世の中にはさまざま情報が錯綜していて、それに人々は翻弄されている。ネット社会の爆発的な拡大がそうした風潮をさらに進化させ、もはや文化として根付く粋にまで変貌したとさえいえるだろう。

 それが良いか悪いかはもちろん誰にもわからない。我々の生活を向上させた面もあれば、必ずしも便利とはいえない面もある。飛び交う情報はその拡散性によって、注目を集めることもあれば、他方では誰かの心を痛めることもある。

 だが、またまた申し訳ないが、ただそれだけだ。

 世の中には、テレビやマンガで描かれるような殺し屋集団などは存在しない。しかし、誰もが知らない世界が現に存在していたりするのだ。

 それは特別な領域で、手前味噌でかたじけないが、私自身もその中を生きる人種となるだろう。

 特別な存在とは、世間に認知された瞬間に、特別という看板を下ろすことになる。要するに特別だと知られていないからこそ、特別な存在といえるのだ。

「本当に凄い人間というのは、世の中には知られていない」

 私は、『インフォーマ』の作中のセリフとして、「本当に凄い人間というのは、世の中には知られていない。だが、自分自身だけが自分は特別だと理解しているから凄いんだ」と、今度は大沢在昌バリのセリフのようなことを書いているが、実際、その言葉に嘘はない。ある意味、承認欲求とは対極な位置に存在している。

 そして私は自分のことを多分、誰よりも理解している。好きか嫌いかといえば、難儀な性格なので、愛想でも、自分のことを好きだとは言ってやれないが、特別な世界観で勝負していることは、誰よりも多分、知っていたりする。

 今、誰しもが目で見ている世界。それだけがすべてではないことが、『インフォーマ』という作品を読めば、少しは理解することができるのではないだろうか。

 21年目である。自分自身の人生を、自分の力で挽回するために小説家を志して21年である。

 はっきり言って、えらく銭にならない挙げ句にひたすら地味な職業を我ながら選んだものである。もう選択肢もあまり残っていない境遇だった。

 早くストレスのかからない気楽なエッセイ、他人さまの悪口や、クスッと笑ってもらえるような皮肉を書くだけで、のんびり暮らせるようになりたいが、当面の仕事内容を見ていると、それはまだまだ難しそうだ。

 だって、エッセイの出版依頼など来たことがないのだ。そんなオーダーは、この先も舞い込んでくることはないかもしれない。

 先に記した通り、あくまで文芸といえども商業だ。売れれば、書き手を取り巻く境遇が瞬時に変貌することは、私だって理解している。

 25歳のときに小説家になると決意し、筆を握り続けてきた想いが、私をここまで押し上げてくれた。それは必ずしも理想通りにやってきたわけでも、今を満足しているわけでもない。

 だが、無駄では終わらなかったことだけは、確かだろう。筆を握り続けたからこそ、知り合えた人たちも多く存在している。それは私の財産ともなり、書く上の刺激になっている。

 『インフォーマ』の世界観は、姿かたちこそ違えど、世の中に存在している。

 そんな世界観を伝えることができれば、2年の歳月を費やしたことも、悪くはなかっただろう。

(文=沖田臥竜/作家)

『インフォーマ』

沖田臥竜/サイゾー文芸
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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2022/11/10 07:11
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