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『エルピス』最終話…長澤まさみ“浅川”が最後に掴んだ「希望」とは

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ドラマ公式サイトより

 長澤まさみ主演のフジテレビ系月10ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』が、12月26日の第10話で最終回を迎えた。予告動画では「八頭尾山女子中学生殺人事件」の冤罪疑惑を追ってきた浅川恵那(長澤まさみ)が「なんで殺されなきゃいけないのよ!」と叫ぶシーンや、「私はこの原稿、読むから」と到底楽しいとも思えないニュース原稿を手に不釣り合いなほど眩しい笑顔を見せるシーン、権力側についた斎藤正一(鈴木亮平)と対峙するシーンなどが散りばめられており、その行く末が注目されていた。

 現副総理の大門(山路和弘)が2017年、総務大臣時代に派閥議員の強姦事件もみ消しを指示したことを証言した元秘書の大門亨(迫田孝也)が突然この世を去った。「自殺」という警察発表を鵜呑みにするマスコミに我慢ができなくなった村井喬一(岡部たかし)が『ニュース8』のスタジオに殴り込みにきた翌日、浅川はその理由を知るために岸本拓朗(眞栄田郷敦)を訪ねる。亨が殺害されたことに打ちのめされ、無力感を覚えていた岸本は「知ってどうするんですか? 『ニュース8』のトップニュースにでもしてくれるんですか? してくれないですよね?」と浅川に詰め寄る。しかし浅川とて引き下がることはできない。報道人としてはまっとうで尊敬できる人だった村井が暴れるほどの真実。それがどんなに厳しくとも、自分に力がなくとも、「まずは向き合うしかない。そしてそこから始めるしかない」という浅川の決意に、岸本は折れた。

 亨の内部告発、さらに亨は自殺ではなく「大門が消した」可能性が高いと聞いた浅川は慄くと同時に怒りに震える。巨大な権力を相手に「勝てない」としてもう手を引くと話す岸本に、浅川は「やだ、私は。そんなの絶対いや。そんな……そんなひどいことに負けながら生きてなんていけないよ。もらうから、私これ。このスクープ、君、いらないんでしょ? やるから、私」と宣言する。「キャスター降ろされますよ」「殺されますって、マジで!」と止めようとする岸本に、浅川は「なんで殺されなきゃいけないのよ!」と怒りを爆発させる。

 感情があふれる浅川は、「自分の仕事をちゃんとやりたいだけじゃん。何の罪もない人がこれ以上犠牲になるのを見ていたくないだけじゃん。1人の人間としてまともに生きたいだけじゃん。何にもむちゃなこと望んでない。当たり前の人間の普通の願いが、どうしてこんなにも奪われ続けなきゃいけないのよ!」と涙ながらに訴える。岸本ともみ合ううちに告発を録音したレコーダーを払い落としてしまった浅川は、壊れていないか焦ってデータを確認する。するとレコーダーから聞こえてきたのは、岸本という信頼できる人物に自身の告発を託せたことに「真っ暗闇の中に一筋、細い光がさしたような気持ち」と話す亨の声だった。どこにも希望がないと嘆いていた浅川はハッとする。浅川は、目の前にいる人を信じられることこそが希望なのだと気づき、岸本に「ありがとう。今日までいつも、目の前にいてくれて。君がいてくれたから私、今日までやってこれたんだね」と感謝を告げる。

 吹っ切れた浅川に迷いはなくなった。『ニュース8』で亨の告発をゲリラ放送するために、ディレクターである滝川(三浦貴大)に協力を要請する。「できるわけないだろ」という滝川に、浅川は淡々と「できるかどうかを相談してるわけじゃなくて、やるの、私。今日これ。トップニュースでやる」と宣言。番組が打ち切りになることを心配し、「どんだけの人間に被害が及ぶと思ってんだよ」と滝川は説得するが、浅川は逆に「私たちが圧力に屈して本来の役割を怠ったがために、どれだけの人たちが犠牲になってきたか、想像してみたことある?」と切り返し、「私はもう誰の信用も裏切りたくない。信用を裏切るってさ、その人から希望を奪うってことなんだよ。二度とやりたくない。てか、もうできない。なのでご協力お願いします」と不退転の意思を見せる。

 滝川がVTRを流さなくても原稿を読むと主張する浅川を、自分では止められないと理解した滝川。彼が救いを求めて連絡をしたのは、報道の元エースで浅川の元恋人、そして退社後は大門のもとに向かった斎藤だった。放送直前のタイミングでやってきた斎藤は「大門副総理のスキャンダルに関するニュースを外してほしい」とストレートに要求するが、浅川は拒否。斎藤は、このニュースが流れれば大門が失脚するだけにとどまらず、内閣総辞職や政権交代も起こりうる、そうなれば国家の危機ともなりかねないと主張し、それらに対する責任の取れない一アナウンサーが切っていいカードではないと説得する。

 だが浅川は、影響力の大きさを自覚しながらも、「でも、どれも紛れもない真実なんです。この国の司法は正しく機能していない。すでに危機なんです」「知らせるというカードを切ったときの責任は、私個人に負いきれるものではないかもしれません。でもじゃあ今、知らせないというカードを切っている人は? その人はその責任を負えるつもりで切っているんでしょうか? 私にはそうは思えません。そしてそれが最善のカードだとも思えません!」と訴える。斎藤は「たしかに最善とはいえない」と認めながらも、それでも知らせないほうが「まし」だと主張。そして自分が政界入りした暁には「より建設的でより有効な方法」を必ず見出すとして「時間をくれ」と情に訴える。

 斎藤にしばし背を向ける浅川。振り返り、八頭尾山女子中学生殺人事件の真犯人と見られる本城彰(永山瑛太)を逮捕させてほしいと要求する。「今日以降、本城彰に関する報道に一切邪魔をしないこと。警察が逮捕に動くのを止めないことを約束してください」と、内部告発のニュースを取り下げるための交換条件を提示し、大門に条件を飲ませることに成功する。しかし、「今夜のトップニュースで出してかまわない」「明日まで待つと君は事故か病気で(番組に)出れなくなるよ」と警告し、「ただし大門と本城の父親の関係についてはオフレコで」と条件をつける斎藤は、完全に権力者側の人間だった。「相剋の関係」になった2人は、利害が一致し、握手を交わす。

 浅川はすぐさま岸本に連絡し、八頭尾山女子中学生殺人事件の真犯人に関する新証拠についてトップニュースで報じる。この報道により、松本死刑囚(片岡正二郎)の冤罪の可能性の高さは世間の知るところとなった。放送終了後、浅川と岸本が牛丼をかっ食らっているところに、村井が合流する。“信じられる目の前の人”たちによるささやかな祝杯だった。

 時は流れて2020年10月。浅川は変わらず『ニュース8』のキャスターを続け、岸本は村井の立ち上げた小さな映像制作会社で働き、大門は、八頭尾山女子中学生殺人事件発生当時に本城の逮捕を妨害した疑惑を新聞記者の笹岡(池津祥子)らに追及されていた。そして死刑判決を受けていた松本は釈放され、チェリー(三浦透子)がつくったカレーを食べ、泣きながらショートケーキをほおばっていた。

 放送終了後、SNS上では「一番現実的なラストだった」「きれいなエンドでもバッドエンドでもない」など、『エルピス』の勧善懲悪に収まらなかった点が大いに評価されていた。松本は救えたが、巨悪がのさばる構造は変わらない。亨の告発を駆け引きの材料にすることで、根本的な原因となった権力そのものを裁くことはできなかった。しかし浅川や岸本が、亨の命がけの告発をないがしろにしているわけでないことも明らかである。「正しいこと」を選ぶ難しさは、最後までつきまとう。

 権力に対する抵抗だけでなく、加害者になりうる自分たちの内省を丁寧に描いた『エルピス』は決して観ていて楽しいタイプのドラマではなかった。しかし浅川たちが開けたパンドラの箱の中に見た最後の希望に、救われた人は多かったはずだ。

■番組情報
月曜ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—
フジテレビ系毎週月曜22時~
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原 善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
プロデュース:佐野亜裕美、稲垣 護(クリエイティブプロデュース)
演出:大根 仁、下田彦太、二宮孝平、北野 隆
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作・著作:カンテレ
公式サイト:ktv.jp/elpis

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2022/12/27 20:00
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