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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】年末年始編

宗教二世の苦悩『REVOLUTION +1』ほか 2022年に話題となった日本映画たち

年間の失踪者は約8万人、崩壊に向かう家族像

宗教二世の苦悩『REVOLUTION +1』ほか  2022年に話題となった日本映画たちの画像2
役所広司と吉沢亮が共演、国際色が豊かな『ファミリア』

 タモツ清嵐が演じた『REVOLUTION +1』の主人公・川上哲也は、家族の再生を願い、それが叶わないと悟り、凶行に走ることになった。社会の最小単位である「家族」の崩壊を描いた作品が近年は目立っている。

 片山慎三監督のオリジナル作『さがす』では、忽然と姿を消した父親(佐藤二朗)を中学生のひとり娘(伊東蒼)が独力で探すことになる。年間の失踪者数が8万人に及ぶこの国の閉鎖性を背景にした久保田直監督の『千夜、一夜』では、失踪した夫の帰りを待つ妻たち(田中裕子、尾野真千子)の揺れ動く心情が描かれた。

 2000年代から2010年代にかけて従来の家族像に代わる「擬似家族」をテーマにした映画が数多く作られたが、社会状況がますます悪化した2020年代は、家族という概念自体がすでにフィクション化してしまったように感じられる。

 芥川賞作家・平野啓一郎の同名小説を『愚行録』(17)の石川慶監督が映画化した『ある男』(上映中)も、失踪した「ある男」をめぐるシリアスな物語だ。窪田正孝演じる「ある男」は、なぜ戸籍を捨ててまで失踪しなくてはならなかったのか。出自によって差別し、社会から一度ドロップアウトした者の存在は認めようとしない社会の不寛容さが浮き彫りとなっている。

 出演シーンは少なかった「ある男」役の窪田正孝だが、物語全体を覆う影のような存在感を漂わせていた。恋愛とは異なる感情で結ばれた男女の逃避行を描いた広瀬すず&松坂桃李主演作『流浪の月』(DVDレンタル中)と共に、2022年の邦画を代表する作品と言っていいだろう。

 ゼノフォビア(外国人嫌悪)を題材にした作品も印象に残った。トーマス・アッシュ監督が撮ったドキュメンタリー映画『牛久』では、茨城県牛久市にある「東日本入国管理センター」に収容された難民申請者たちへの虐待や暴力を記録した生々しい映像が、スクリーン上に映し出された。スリランカ女性のウィシュマ・サンダマリさんが2021年に亡くなった名古屋入管の収容施設も、同じような状況だったと思われる。

 嵐莉菜と奥平大兼が新鮮な演技を披露した『マイスモールランド』も、クルド人難民問題を扱った社会派ドラマの秀作だった。是枝裕和監督が立ち上げた映像制作集団「分福」の新鋭・川和田恵真監督のデビュー作であり、言葉や文化の違いを乗り越えようとする若い主人公たちの葛藤が繊細に描かれている。この作品を観ると、ゼノフォビアというよりも、日本人の海外事情に対する無関心さが問題の根底にあることが分かる。配信&DVD化されているので、見逃していた人にお勧めしたい。

 2023年1月6日(金)に公開される、成島出監督の『ファミリア』も注目作だ。2013年にアルジェリアで起きたイスラーム武装集団による日本人を含む人質殺害事件、1990年代に愛知県の保見団地で暮らす在日ブラジル人と地元右翼団体との間で起きた抗争トラブルなどをモチーフにしている。

 役所広司と吉沢亮という演技派同士が父子役で初共演。また、日本で暮らすブラジル系の若者らがオーディションによって多数出演しており、作品に活気を与えている。現役中学生たちを起用した『ソロモンの偽証』(15)と同様のワークショップスタイルの制作現場は、成島監督にとって大いに演出のしがいがあったようだ。

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