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『メタモルフォーゼの縁側』がBEST1!映画ライター・ヒナタカの2022年映画ベスト10

5位は『THE FIRST SLAM DUNK』※以下、12月下旬に解禁された情報を含みます。

※以下、公開中の『THE FIRST SLAM DUNK』について、12月下旬に解禁された情報を含んでいます。

5位 THE FIRST SLAM DUNK

 言わずと知れた大ヒットマンガ『スラムダンク』の劇場アニメ。原作者である井上雄彦が監督・脚本を務めたからこその、漫画の絵がそのまま動き出したような感覚、本物そのままのバスケットボールの動き、それらを3DCGならではの「空間」で表現したことで、劇中の観客と同じく固唾を飲んで応援する体験ができる、日本のアニメ映画としても、スポーツを題材にした映画としても、まさに革新的な傑作となった。

 原作では自称「天才」の桜木花道が主人公だったが、今回は宮城リョータという、原作では他キャラクターよりも比較的エピソードの掘り下げが控えめで、なおかつバスケではハンデになりやすい低身長ながらドリブルの力で活躍する選手を、実質的な主役として迎えたことに大きな意義がある。今回の彼の物語は、心に傷を抱え、それでもなおスポーツを心の拠り所にする点で、井上雄彦作品の『リアル』にも、前述したアニメ映画『バブル』にも通じている。その宮城リョータの視点を語ったことで、『スラムダンク』という作品が四半世紀の時を経て完成した、と言っても過言ではないだろう。

4位 私ときどきレッサーパンダ

 言わずと知れた世界的なアニメ映画のブランド・ピクサーが、「オタクな女の子たち」をコミカルに、だが誠実に描いた作品だ。例えば、主人公は思春期ならではの妄想イラストを隠れて描いて、それを母親に見られてしまい、さらなる恥ずかしい目に遭わされる、という序盤のシーンは極端なリアクションに笑ってしまうのだが、同時にオタクであれば「その苦しい気持ち、わかる……!」と感情移入できるのではないか。

 そして、作り手は主人公がレッサーパンダに変身するのも、思春期のメタファーであると明言している。親への反抗心や、暴走気味な自意識もレッサーパンダには託されており、はっきりと言葉に出さなくても「生理」も描いていたりもする。オタクな友達たちもとても愛おしく魅力的に描かれており、「あの頃」を懐かしく思いたい大人におすすめなのはもちろん、お子さんと観れば互いに親子関係を良い意味で見つめ直すきっかけにもなるだろう。コロナ禍以降、『ソウルフル・ワールド』と『あの夏のルカ』に続きピクサー作品が劇場で観られなかったことは残念だが、ディズニープラスの配信でもぜひ楽しんでほしい。

3位 映画 ゆるキャン△

 テレビアニメだけでなく実写ドラマも好評を得た漫画『ゆるキャン△』の劇場アニメ。そちらではかわいい女子高生たちが、タイトル通りにゆるい(だがノウハウは本格的な)キャンプをしていく様が微笑ましい内容だったが、この劇場版では彼女たちが「社会人」になって「キャンプ場作り」をする姿を描く。それぞれの環境は変化しているが、彼女たちの本質は変わっていない。だが、学生の時よりもお金に自由があり、より社会にコミットできるはずの社会人になってこその、社会に対する「どうしようもなさ」も現実的な視点で描かれていた。

 その過程における数々の出来事は社会人の「あるある」であるし、終盤の尊いメッセージは社会人の全てに通ずるものだ。観ればきっとキャンプ場に行きたくなるし、仕事で悩みを持った人には福音にもなり得るだろう。予備知識がなくても老若男女問わずに楽しめる内容だが、『ゆるキャン△』のキャラクターの特徴を知っているとさらなる感動があるので、少しだけでも原作やテレビアニメを先に触れておくことをおすすめする。現在はAmzonプライムビデオで見放題だ。

2位 ハケンアニメ!

 公開当初は興行的に苦戦したものの、口コミで話題となりロングランを記録した実写映画だ。何よりも賞賛すべきは劇中のアニメを「ガチ」すぎるスタッフとキャストで全力で作り上げ、ハケン(覇権)を争うことに説得力を持たせたこと。加えて物語も非常に緻密に構成されていて、「作り上げたアニメで対決!」というわかりやすさに加えて、ちょっとした言動が後の展開に呼応するよう伏線が忍び込まされていて、明確に言葉にしなくても作り手の想いがこれ以上なく伝わる場面も多い。

 全体的にはダウナーで冷徹なトーンで展開するが、それこそが地道な作業の繰り返しであるアニメの制作現場、作り手の執念を示しているかのようでもあった。不満を溜め込む新米監督役の吉岡里帆、飄々としていてクセありまくりの実力派監督役の中村倫也を筆頭に、豪華キャスト陣もこれ以上はないほどのハマり役。現在は各種配信サービスでレンタル中だ。また、辻村深月原作の作品は、現在公開中の劇場アニメ『かがみの孤城』も素晴らしい出来なので、ぜひ合わせてチェックしてほしい。

1位 メタモルフォーゼの縁側

 鶴谷香央理のマンガを原作とした、BL(ボーイズラブ)作品を通じて知り合う、歳の差58歳の女性の関係を、とても愛おしく描いた映画だ。とにかく、初めはギクシャクするも次第に打ち解けていく芦田愛菜と宮本信子それぞれが可愛らしくって仕方がない。「悪い人がひとりも出てこない」優しさいっぱいの作品ながら、胸を締め付けるほどの悲しく苦しい心情も繊細に描かれている。そして、「大好きな創作物がある人」への祝福に溢れた、小さな奇跡と幸福を紡ぐ物語と演出には、もはや号泣ものの感動があった。

 また、タイトルの「縁側」という場所に込められた意味も素晴らしい。縁側は風通しが良く、陽当たりが良く、誰から塀の外から見られてもまあ問題ない、時には玄関から来た人も加わってもいいという、BLに限らない「好きなものを語る場所」なのではないか。T字路sの「これさえあれば」をカバーした主題歌も作品に実にマッチしていて100点満点。現在は各種配信サービスでレンタル中だ。

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