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『すずめの戸締まり』で新海誠監督の恋愛観とフェチズムはどう変わったか?

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映画『すずめの戸締まり』公式サイトより

『すずめの戸締まり』が公開からわずか2週目で動員299万人、興収41億5400万円を超える特大ヒットを遂げている。

 リピーターも多く、祝日かつサービスデイの劇場が多かった11月23日は首都圏で満席の回が相次いでいた。2016年の『君の名は。』と2019年の『天気の子』に続き3作連続での興行収入100億円突破も確実視されており、新海誠監督が「真の国民的アニメ映画監督」へ躍進した記念碑的な作品とも言えるだろう。

 そんな『すずめの戸締まり』は作品評価もおおむね高く、筆者個人としても大好きな作品だが、不満点もいくつか挙げられている。例えば「恋愛要素にノレなかった」「新海誠監督の良い意味でのエゴイスティックな面やフェチズムが後退した」というものだ。

 だが、種々のインタビューを読み、本編の内容も鑑みると、新海誠監督が「あえて」そうしていること、作家性を維持しつつもこれまでと違った作品を届けるという気概があり、それが十分に成功しているとわかったのだ。その理由を記していこう。

※以下からは『すずめの戸締まり』の一部ネタバレに触れています。

当初は恋愛ではない映画にしたいと考えていたけど……?

 新海誠監督は種々のインタビューで、当初に考えていた『すずめの戸締まり』の内容が、完成した映画とは異なっていることを告げている。中でも大きいのは「女性同士が旅をする案があった」ことだろう。パンフレットでは「(最初は)恋愛ではない映画にしたい」「(パートナーを同性にすることで)それはそれで自分のやってこなかったものが描けるかな」などと語っていたりもするのだ。

 だが、映画本編は女子高生の鈴芽と、椅子に姿を変えた青年・宗像草太とのロードムービーとなった。そして物語は日本の各地を渡り歩いて、「そこに住んでいた人たちの善意」があってこそ、「もっとも行きたかった場所」に辿り着けたというものだ。そうであるのに、行動を共にした異性との「恋愛」が終盤でクローズアップされてしまうことに、個人的にはそれまでの内容との「ズレ」を感じてしまったのだ。

 実際に、週プレNEWSのインタビューでは、主人公の鈴芽が「好きな人のところへ!」と言う場面が、「ここは恋愛じゃないでしょ」とスタッフ陣に反対されたことが語られている。しかし、新海誠監督によると「僕としてはああいう場面で好きな人のもとに行こうとしてほしいなと思ってあのセリフを入れた」のだそうだ。

 他にも、パンフレットには「お互い好意はあるにしても、恋人関係というよりは戦友みたいなものだと思いながら描きました」「バランスを考えながら物語を形にしていく中で草太というキャラクターが出てきて、やっぱりパートナーは草太であるべきだったと今では思っています」と語っている。

 さらに、来場者プレゼントの「新海誠本」に記載されている企画書の前文では「ターゲットとする観客を想定するのだったら、ラブストーリーを求める10代に向けるのはもちろんだが、同時に家族連れも退屈させないという大望を抱きたい」とも書かれている。パンフレットでの発言と食い違っているようでもあるが、その段階から恋愛要素も入れる方向へとシフトした、ということなのだろう。当初の考えとは異なり、かつスタッフから反対されたとしても、やはりこれまでの作品と同じく(思いや行動がすれ違ったりはしないが)男女の恋愛を描きたくなったし、今ではそれで良いと新海誠監督は考えているのだ。

 そうしたバランスを考えていた上で、先行作品として新海誠監督が思い出したのが、宮崎駿監督の『魔女の宅急便』ということも面白い。そちらでのトンボは恋愛とまでは言えなくても協力と信頼をし合う関係であるし、様々な年齢の女性たちと交流する話であることが『すずめの戸締まり』と共通している。荒井由実(現:松任谷由実)の『ルージュの伝言』が流れるというのも、わかりやすいオマージュだ。

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