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『インフォーマ』を尼崎から世界へ送り出してくれた人々…「オレら全員がインフォーマじゃ」

『インフォーマ』の台本と、著者が藤井監督の誕生日に差し入れて、スタッフ用Tシャツ…苦労と喜びが詰まった思い出の品。

沖田臥竜氏が原作を務めたドラマ『ムショぼけ』の放送から1年ちょっと、ついにNetflixを皮切りに同氏の新作『インフォーマ』がスタートした。どちらも関西準キー局発の作品だが、すでにローカルの枠を越えた広がりを見せて、『インフォーマ』に関しては全世界配信も決まっている。両作品のあいだには、どんな時間的、人間的な流れがあったのか。そして、どんな人たちの支えがあったのか――沖田氏による特別エッセイ。

『インフォーマ』がカンテレで放送されるまで

 1月19日からの地上波での放送開始を前に、一足早くNetflixで『インフォーマ』の幕が開けた。ふと思うことがある。

 ずっと思い描いていた場所に今、自分が立っているんだなと。その感覚はなんだか夢の中を浮遊している感覚に似ていて、「凄いぞ!」とか「やったじゃないか!」みたいな感情は湧き上がってこない。ずっと必死でやってきた。嫌なことや苦しいことがあっても、挫けずに筆だけは握り続けていた。その思いは今も変わらない。だけど例えば、いろいろな人が『インフォーマ』って口にしたり、宣伝してくれたりしているのを見聞きするたびに、溢れ出す喜びを私はひとりで噛み締めている。

 満足なんて多分、永遠にないと思う。見ている景色もこの先も変わらないと思う。だけど、私は何があっても書くことだけはやめなかったから、いろいろな人と出会い、世界が広がったのは事実だ。今は、私も作品の作り手としてではなく、いち視聴者として、カンテレ(関西テレビ)で、Netflixで、そして読者として、『インフォーマ』を堪能したい。

 振り返れば、ドラマ『ムショぼけ』(2021年/朝日放送)の放送が終わった頃には、今度はカンテレで『インフォーマ』をやることを藤井道人監督が成立させてくれていた。

  『ムショぼけ』でお世話になったプロデューサーの山崎さんと南さんはもちろん、そのほかの朝日放送の人たちも本当によい人たちばかりだった。

 コロナ禍で不安定な状況にあっても、『ムショぼけ』を成立させるために、一生懸命になってくれた。それは、原作小説『ムショボケ』の出版を担当をしてくださった小学館の森田さんも同じだった。ただ、今のうちにいろいろな経験はしておこうと思っていて、次に『インフォーマ』をやるならば、どこの局がよいかと考えていたときに、別件で訪れたカンテレで私は度肝を抜かれた。

 カンテレの入口にデカデカとドラマ『アバランチ』の垂れ幕がかけられていたのだ。それを見たとき、「カンテレってやっぱりすげえよな~」と圧倒されたのだ。そこで思ったのだ。「『インフォーマ』はカンテレだな」と。

 そこから私はカンテレで一緒に仕事をしたこともある、信頼できる人物に電話をかけた。その人物とは、報道部の高橋さんという人で、のちにカンテレでのドラマ化の実現に向け暗躍してくれ、企画協力として、『インフォーマ』にもクレジットされることになる。

 私からの久しぶりの電話に高橋さんは最初そっけなかった。

「どうしたんですか~、久しぶりじゃないですか。なんかABC(朝日放送)とべったりみたいですね~」

 皮肉のオンパレードだった。私は高橋さんの皮肉を軽くいなし、挨拶もそこそこに本題に入った。

「高橋さんって、確かドラマとか興味ありましたよね?」

「何言ってんすか? 『世界の中心で、愛をさけぶ』(小学館)は、ぼくの同級生のお父さんの作品だって前にも話したじゃないですか。むちゃくちゃありますよ。えっ~、まさか次の作品でも考えてんすか? だったら、制作にルートありますよ」

 翌日には、藤井監督がドラマ『ムショぼけ」のクランクインの日に尼崎まで持ってきてくれた『インフォーマ』の企画書を携えて、カンテレに行っていたのだった。

 報道と制作は、同じ局内でも畑が違う。ましてや『インフォーマ』のようにコンテンツ部まで参入してきてくれるのは、あまり前例がないことでもあった。

 その時、私は『インフォーマ』の脚本の叩き台をすでに書き上げていたので、それも持参し、見てもらうことにした。ここで登場するのが、カンテレの代表作『アンフェア』などを手掛け、数々の名作を世に放ってきた辣腕プロデューサーの豊福さんだった。

 高橋さんからバトンを受け取ってくれた豊福さんは、それは大変な働きを見せてくれた。そして、カンテレの管理職の人たちにまで話がいった段階で、私のバトンは藤井監督に預けて、藤井監督が出陣していってくれたのだ。そして役員会議が開かれることになり、同局における『インフォーマ』のドラマ化が正式決定していくのだが、私はそのときに実は、一本の電話を入れている。

朝日放送に対して切った仁義

 初めて話すが、電話の相手は『ムショぼけ』で本当にお世話になった朝日放送の山崎さんだ。私はいうならばフリーランスで、テレビ局となんらかの専属的な契約を交わしているわけではない。だからといって、そこには人として当たり前の仁義は存在する。同じ関西で、しれっとよその局でドラマをつくるのは、私は嫌だった。

 「山崎さん。すいません、他言はしてほしくないのですが、実は今度はカンテレでドラマをやってもらおうと考えてるんです」

 山崎さんは純粋に「すごいじゃないですか!」と喜んでくれた。もちろん山崎さんが他言するなんてことはなかった。

 私は、出版社であれテレビ局あれ、さまざまな垣根を超えて、いろいろな話にコミットしている。それは間違っても私が偉いからとか凄いからでないことは、私が一番理解している。結局、人間関係とは細やかな気遣いの上に構築されているのだ。

 私は言いたいことも言ってしまうし、人としておかしなことをした人間に対しては滅相うるさい。それは、私自身が持て余すくらいだ。だけど反対に親切にしてもらったことは忘れないようにしている。

 『インフォーマ』は小説の出版においても、口には出せないがさまざまな垣根を超えている。それは『ムショぼけ』だってそうだった。

 飛び立っていく姿を私はじっと見ている。『インフォーマ』がさまざまな人たちの想いをのせて、私の地元、兵庫県尼崎市から飛び立っていったのをじっと見ている。

「ええか、『インフォーマ』、遠慮なんかいらんぞ。思いっきり羽ばたいてこいよ。みんなが楽しみにしてくれてるから、大きく羽ばたいて、いろんなもんを塗り変えてきてくれよ!」

 『インフォーマ』は全10話あるが、その中に神回が存在する。それも頭に入れながら、楽しみにしてもらえると「あ~あ、このことを言ってたんやな」と思ってもらえるのではないだろうか。

 そして、この春から小学館が運営している電子コミックサービス「マンガワン」での『インフォーマ』のマンガ化がスタートする。私はマンガ版でも監修を務めているので、ネームチェックをさせてもらっているが、そのクオリティも『インフォーマ』を応援していただいてる人々に喜んでもらえる上質なものとなっている。

 2023年、『インフォーマ』現象を巻き起こしたい。

(文=沖田臥竜/作家)


小説『インフォーマ』
沖田臥竜/サイゾー文芸/税込1320円
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週刊誌記者、三島寛治の日常はひとりの男によって一変させられる。その男の名は木原慶次郎。クセのあるヤクザではあったが、木原が口にした事柄が次々と現実になる。木原の奔放な言動に反発を覚えながらも、その情報力に魅了された三島は木原と行動をともにするようになる。そして、殺人も厭わない冷酷な集団と対峙することに‥‥。社会の表から裏まで各種情報を網羅し、それを自在に操ることで実体社会を意のままに動かす謎の集団「インフォーマ」とはいったい何者なのか⁉パンデミック、暴力団抗争、永田町の権力闘争、未解決殺人事件…実在の事件や出来事を織り交ぜ生まれた「リアル・フィクション」の決定版!


ドラマ『インフォーマ』
2023年1月19日(木)スタート 毎週木曜深夜0時25分~0時55分(関西ローカル)
見逃し配信:カンテレドーガ・TVer
Netflix全世界配信(先行配信中)
公式サイト https://www.ktv.jp/informa/


ドラマ『インフォーマ』予告映像

桐谷健太演じる主人公で、裏社会・政治・芸能など、あらゆる情報に精通するカリスマ的情報屋“インフォーマ”木原慶次郎と、佐野玲於(GENERATIONS)演じる週刊誌「タイムズ」記者・三島寛治が、警察・ヤクザ・裏社会の住人たちを巻き込み謎の連続殺人事件を追うクライムサスペンス。事件の背後に存在する謎の集団のリーダーで、木原の因縁の相手となる男を、事務所移籍後初のドラマ出演となる森田剛が演じる。

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)、『ブラザーズ』(角川春樹事務所)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

最終更新:2023/01/15 16:43
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