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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.725

ティモシー・シャラメ主演のR18ホラー 美しき人喰いたち『ボーンズ アンド オール』

ヴィーガンが執筆したカニバリズム小説

ティモシー・シャラメ主演のR18ホラー 美しき人喰いたち『ボーンズ アンド オール』の画像3
ティモシー・シャラメは、ルカ監督と共に製作にも関わった

 本作の原作となったのは、2015年に刊行されたカミーユ・デアンジェリスのYA(ヤングアダルト)小説『ボーンズ・アンド・オール』。過去にはカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』や湊かなえの『告白』などが選出された、全米図書館協会が発表する「アレックス賞」に選ばれている。

 カニバリズムというヘビーな題材を小説にしたカミーユは、どんな作家なのだろうか。原作小説の日本語版の編集を担当した早川書房の東方綾さんに尋ねた。

東方「米国在住のカミーユは、現代版メアリー・シェリー(『フランケンシュタイン』の原作者)を主人公にした SFジャンルミックス小説『Mary Modern』で2007年にデビューし、『ボーンズ・アンド・オール』は3冊目の小説になります。アイルランドに留学した経験があり、アイルランドの旅行ガイドやセルフヘルプ本なども執筆しています。若者向けの良書を選出するアレックス賞に選ばれた『ボーンズ・アンド・オール』は、脚本家のデビッド・カイガニックが読み、ルカ監督に勧めたそうです。よくぞ見つけ、映画化してくれたなと思います。ちなみにカミーユは、野菜しか食べないヴィーガンだそうです」

 カニバリストが登場する米国小説というと、ジャック・ケッチャムのホラー小説『オフシーズン』、トマス・ハリスの犯罪小説『羊たちの沈黙』などの毒気たっぷりな作品が思い浮かぶ。だが、カミーユが書いた『ボーンズ・アンド・オール』には、主人公たちの成長を描いた青春小説としての魅力が感じられる。

東方「米国の出版界では一時期、アーバンファンタジーと呼ばれるジャンルが流行しました。『トワイライト~初恋~』(08)として映画化された『トライライト』シリーズなどがそうです。『ボーンズ・アンド・オール』もその流れを汲むものですが、ファンタジーどっぷりな世界観ではなく、リアルな青春ものとファンタジーものの中間に位置する作品になっています。そうした独特な立ち位置が、カミーユ作品の特徴かもしれません。映画化が決まって、私も初めて原作小説を読みました。読む前は『カニバリズムの小説か』と身構えたのですが、原作はハードな描写は控えめで、生きることに悩む若者たちの物語として楽しむことができました。映画では、上半身裸のティモシー・シャラメが駐車場に現れるシーンにドキッとしました。彼が主演した『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)の原作小説も私が担当したこともあって、大のティモシー・シャラメ推しなんです(笑)」

愛する人と身も心も一体化する主人公

ティモシー・シャラメ主演のR18ホラー 美しき人喰いたち『ボーンズ アンド オール』の画像4
死の匂いを漂わせる不吉な男・サリー(マーク・ライランス)

 映画は原作にほぼ沿った形で物語が進んでいくが、アレンジされている部分もある。マレンが探すのは原作では父親だが、映画ではマレンを産んだ母親を探すことになる。母親との再会劇は、マレンにさらなる衝撃を与える。もうひとつ、原作と映画との違いを、東方さんは指摘した。

東方「原作では、マレンの犠牲になるのは、最初のベビーシッター以外はみんな男の子なんです。サマーキャンプなどで仲良くなり、2人っきりになった男の子をマレンは食べてしまう。好きになった相手のことを食べてしまいたくなるという衝動を、マレンは抑えることができないんです。映画ではその部分はアレンジされていますが、原作のモチーフをうまく生かした映画になっていると思います。小説はマレンの成長に重点が置かれ、映画はマレンとリーの恋愛要素が大きくなっています。小説、映画それぞれの面白さがあるんじゃないでしょうか」

 スティーヴン・スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)でソ連の諜報員を演じ、アカデミー賞助演男優賞を受賞したベテラン俳優のマーク・ライランスが、年齢不詳の男・サリー役で不気味な存在感を放っている。これまで多くの人たちをたいらげてきたサリーに対し、マレンは本能的に危険なものを感じている。だが、サリーがいなければ、マレンは人喰いとしての生きるすべが分からず、リーと知り合うこともできなかったはずだ。

 食人鬼と化しているサリーとは対照的に、若いリーは人間らしい心を失わずに生きようとする。そんなリーと一緒に行動することで、マレンは自分の中に湧いてくる猛烈な飢餓感を抑えるようになっていく。愛するリーも、おぞましいサリーも、どちらもマレンが成長する上で欠かせない存在だった。

 キリスト教の聖餐式では、イエス・キリストの肉と血を模したパンとぶどう酒を信者たちは口にすることになる。カニバリズムを文化的に捉えると、飢餓を満たすためだけでなく、呪術性や宗教的な意味合いを持ったケースが古くから存在する。この映画のクライマックスにも、壮絶さを極めた聖餐式が用意されている。

 安住の地はどこにも約束されていないマレンとリーだが、それでも2人は必死で生き抜こうとする。ティモシー・シャラメ演じるリーの神々しさが目に焼き付く。生きること、愛すること、食べることの切実さを描いた本作は、「現代の神話」と称したい。

『ボーンズ アンド オール』
監督/ルカ・グァダニーノ 脚本・製作/デビッド・カイガニック
出演/テイラー・ラッセル、ティモシー・シャラメ、マーク・ライランス
配給/ワーナー・ブラザース映画 R18+ 2月17日(金)より全国ロードショー
©2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
※日本語版原作小説『ボーンズ・アンド・オール』は早川書房より発売中
warnerbros.co.jp/bonesandall

【パンドラ映画館】過去の記事はこちら

最終更新:2023/03/30 19:30
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